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RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語「"49歳でもできる"以外のメッセージこそが見所。あなたの周りにも、きっとある物語」

RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」 このタイトルで、
「また"●●歳で●●になった"モノか」という印象を抱く人はかなり多いと思います。
同じようなタイトルやシチュエーションの泣かせ映画が乱発しているせいです。
私も逡巡があり、本作をTVで録画してから実際に観るまで4ヶ月ほどもかかっています。
しかし、本作を最後まで観て、単純な泣かせ映画だけという感想しか抱けなかったら、
わざわざ手間暇かけてここに記事を書くような真似はしません。
本作を取りあげたいと考えたのは、「●●歳でもできる」以外のメッセージが
沢山詰まっていて、寧ろそれこそが作品の滋味となっているように感じられたから
です。

「平清盛」で清盛の父・平忠盛役として、堂々たる品格を見せつけてついに先週世を去った
勇姿も記憶にまだまだ新しい(そして名残惜しい)中井貴一さんが主演。
でも、何から何までご立派な忠盛パパと違い、本作では、随分くだけた姿が観られて
面白いです。まぁ、冒頭の立派なサラリーマン姿は相変わらずのご立派ぶりなんですが。
リビングに入ってくるシーンが出ると、昔懐かしドラマ「Age,35 恋しくて」を思い出す(笑)。
ついでに、「相棒」で時々脚本を手がけているブラジリィー・アン・山田さんが
(共作ですが)脚本を手がけていたりもします。

また、私は鉄っちゃんではないのでよくわからなかったのですが、
本作での鉄道の描写へのこだわりはものすごいそうです。
実際に使われている列車、教習所、駅、はては部外者が立ち入れない運転台での撮影までも。
「鉄道映画というジャンルを確立したい」というほどの、熱い思い入れが詰まっており、
鉄道好きにはたまらない映画に違いありません。
・・・あれ、松ケンもついこのあいだ、鉄っちゃん役で映画にW主演していたような。
現代にタイムスリップしたら、清盛親子は揃って鉄っちゃんになるのか?


そろそろ、本題に入っていきましょう。
主人公は仕事一筋のエリートサラリーマン、筒井肇
遠藤憲一さん演ずる同期の友人、川平の部署(工場)を経営難で容赦なく潰したり、
リストラ対象を選定・宣告する役目を負わされたりと、非情なエリートそのもの。
川平が「お前は変わってしまった」と嘆いたり、妻や娘には諦められていたりと、
自分らしさを捨て、家庭を顧みることを忘れて、馬車馬のように必死に働いてきました。

しかし、そんな肇の人生を一転させる出来事が立て続けに起こります。
まず、故郷・島根で一人暮らしをする肇の母が倒れ、肇たち家族が病院へ駆けつけると
病気がかなり進行している疑いが高く、大きな病院での精密検査が必要との診断が下ります。
動揺しているところへ一本の電話。川平が交通事故で命を落としてしまったというのです。

亡くした命と、危うい命に直面して、肇は今までの自分の生き方はこれでいいのだろうか、
本当に後悔はないのだろうか、やりたい仕事は何なのか?と初めて自問自答します。
「俺は自分の仕事が好きだ」と言って工場ごとリストラされる道を選んだ、生前の川平の言葉にも
背中を押され、肇は心の奥底に埋もれていた、幼き日々の夢を思い出します。
それは、島根のローカル電車・一畑電車(バタ電)の運転士になること。

肇は一念発起して試験を受験。面接で上役たちを困惑させながらも何とか通過、
若い男の子達に混じって研修を受け、年下のコーチ役に実務を教わりながら
見事合格!晴れてバタ電の運転士として、新たな人生を歩み出します。
そして同期には、野球選手の夢を怪我で絶たれた、無気力な青年がいました。

・・・と、ここまではWikipediaにも書いてあるあらすじ(起承転結の起~承くらい)。
この後の展開を、「"●●歳でもできる以外のメッセージ"」をキーワードに取りあげていきますが
一応ネタバレ配慮のため、「続きを読む」に続きます。
(クリックすると続きが開きます。)
さて、どんなメッセージが込められているのでしょう?例をあげていきます。

「遠距離結婚」という、結婚の新しいかたち
高島礼子さん演ずる、肇の妻・由紀子は、肇の方向転換より少し前から、
ハーブティーのお店を開業し、お店を軌道に乗せるために今が肝心な時期。
専業主婦に収まるのをやめて、やっと、やりたいことを実現するチャンスが巡ってきました。
肇を愛していない訳ではないけれど、やりたいこと、自分らしい生き方を諦めたくない。
でも普通、結婚といったら同居で、夫が転勤するなら妻も付き添っていくのが一般的。
新天地での仕事で精一杯の肇にはしっかり考える余裕がないのですが、由紀子はたくさん
考えていました。私たちは、もう離婚なのか・・・?
そうして最後の最後に、肇のバタ電に由紀子が乗ってきて、提案するのが「遠距離結婚」。
子どもももう自立している年齢。お互い妥協しない人生を送るために、ひとつ大きな
提案が、観客に向けてもなされたように感じられました。
基本、保守的な物語なので、このような型破りな提案が出てきたことは、地味にかなり驚き。

やりたいことは就活本の中ではなく、自分自身の体験から見つかる
本仮屋ユイカさん演ずる、肇の娘・は大学三年生。序盤リストラ担当だった肇は
「社会は厳しい所だから、お前もうかうかしていないで就職活動を頑張れ」と急かし、
父娘間の関係は冷え切ったものとなっていました。
倖はおばあちゃんっ子のようで、奈良岡朋子さん演ずる肇の母・絹代おばあちゃんが倒れた時も
「様子を見たらすぐ帰る」と言う肇に激怒。おばあちゃんが島根で療養すると決めると
当時夏休みだったこともあり、肇と共に島根で暮らし、献身的に看病を続けます。
そして、おばあちゃんを看取った後、倖はヘルパーさんらしき研修を受けています。
とても充実した表情で。
バタ電運転士に応募してからの肇は人が変わったように「好きなことをじっくり考えろ」と
言うようになりました。しかし肇に言われるまでもなく、おばあちゃんと過ごした時間の中で
倖は自分の確かな道を見つけ出すことができました。

活き活きとした人が一人いると、周りも引っ張られて元気になる
三浦貴大くん演ずる、肇の同僚の新人運転士・宮田は、プロ野球選手の夢を絶たれて
やけっぱちな気持ちで「とりあえず」バタ電の仕事をこなしていました。
肇が話しかけても全然乗らないし、とりわけ野球の話となると心を閉ざしてしまいます。
しかし、バタ電で運転士として働くことができて本当に嬉しそうな肇と毎日のように接し、
大手会社で長く勤め上げた経験を生かして立派に働く肇の姿にだんだん影響を受け、
また、列車が大好きな子どもを運転席に乗せてあげた時の、少年の輝いた眼に魅せられ、
いつしか宮田は、バタ電運転士という自分の仕事に誇りを持つように。
最後には地元の少年野球チームの指導らしきことをしていたり、倖をどぎまぎしながら
見つめて、慌ててそっぽを向いたりして、恋が芽生えそうなムードも示唆していました。

舞台が片田舎だから通用する、ダイヤ破りの人情運転士という物語
今まで切り捨ててきたものを取り戻すかのように、肇は運転士になってから一貫して
乗客第一主義で仕事をするようになります。数分、列車が送れることになっても、
荷物を落としてしまったお客さんを助けたり、足腰が弱って急いで走れないおばあさんを
待ってあげたり。こうしたダイヤ破りが積み重なり、加えてあるアクシデントも重なって
肇は引責辞任にまで追い込まれてしまいます。
しかし、肇の仕事を敬愛する乗客たちが「やめないで!」と大挙して懇願しに来て、
バタ電側もこの人情劇に心を打たれ、肇を引き続き運転士として続投させることに。
確かに、いい話ではあります。しかしながら、
一瞬想像してみるだけで分かるでしょうが、これが都会だったらまずクビですね。
島根ののんびりした街だからこそ、こんな人情運転士の物語が成立するのです。
逆に言うと、都会はシステムがあまりにも完璧に構築され過ぎていて、
こうした「人の思いやり」という機転が入り込む隙が、もはや一縷もない。
肇は、「ふるさとだから」だけでなく、都会の冷たい完璧主義に疲れ果て、
あるいはうんざりして、島根の街という、人情の通用する舞台を選んだ所もあるのかも。

ゆったり生きるようにすると、気持ちもゆったりして、人間関係もうまくいく
肇はエリートサラリーマンという、輝かしくも忙しない生き方をずっと続けてきて、
他人に対する態度は攻撃的で、帰省の途中でも家族旅行先でもPCや資料とにらめっこ。
それが、故郷の島根に根付いてバタ電の運転士になることを決めた途端、憑き物が落ちたように
ゆったり、おおらかで、くだけた姿が多くみられるようになります。
快活に笑う場面も増えて、あれだけ関係がギスギスしていた倖が、「お父さん変わったね」と言って
なんとなく仲良し父娘になっていくのが印象的。

見ている人は見てる
「バタ電の運転士」という夢を、肇は誰も知らないだろう、覚えていないだろう、
この夢に進むと言い出したら皆驚くだろうと思っていました。
そうしたら、由紀子が「結婚前までは部屋に写真もあったじゃない」と言います。
だから、子どもの頃に沢山集めた切符のコレクションの缶を見せても当然のように
見ています。加えて「おばあちゃんだって、絶対覚えてるでしょう」と。
「昔の話だろう、もう覚えちゃいないさ」と言う肇をよそに、余命僅かとなった
おばあちゃんは、病院の窓から、幼い日の夢を叶えた肇の勇姿を見守ります。
毎日に必死で、自分ではよく見えなくなってしまった自分の色々な側面。
身近な人は、よく見て、よく覚えているものなんですね。


なんだか、すごく遠くの世界の美談のように思えるかもしれません。
だけどこうした物語は、実を言うと私の近くでも、現在進行形で繰り広げられています。
25~6歳の若者の再就職だから、そんなに大それた物語ではないでしょう。
肇のように理想に燃えた型破りな仕事を・・・というタイプでもないですし。
けれど、一度新卒で就いた仕事に破れ、今度は本当にやりたいことをやろうと
昔からの夢、列車の運転士を、アルバイトをしながら、あちこち駆け回りながら追いかけ
1年がかりで遂に、とある地のローカル電車の運転士にありついた青年

私は陰ながら応援してきました。

頑張れ、弟よ。
この記事を、今日も明日も新天地での仕事に駆けずり回っているであろう
弟に捧げます。
弟は生粋の鉄っちゃんだから、この映画もとっくに観ているかもしれないけれど・・・



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