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シガー・ロス:その2 () 「瓦礫の街を彷徨っていたら、果てのない暗闇に呑み込まれて・・・哀しみと安堵感が同居する、名前のないアルバム」

前作「アゲイテスト・ビリュン」で、一躍世界にその名を轟かせた
シガー・ロスSigur Rós)は、
今回レビューする作品で、グラミー賞ベスト・オルタナティブ・ミュージックに
ノミネートされるという快挙を達成。
前作の時点で完成度は高かったのですが、今作で、その音楽性を更に深化させました。
しかし、それに加えて、本作はシガー・ロス史上最も謎めいたアルバムでもありまして・・・。

() (CCCD)() (CCCD)
(2002/10/23)
シガー・ロス

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シガー・ロスのアルバムの中で断トツお気に入りのジャケです!
グラミー賞ベスト・アルバム・カバーにノミネートされてもいます。
しかしながら、日本版のCCCDはいただけない。
この時期のCD全てにいえることなのですが。


アルバムにも曲にもタイトルがありません。
リスナーが自分で解釈してください、という意味合いだとか。
歌詞も、全曲、「ホープランド語」という彼らによる造語で、
何を歌っているのかは彼らにしかわかりません。
一人一人が、その耳に聴こえてくる音から、全てを感じ取らなくてはなりません。
逆に言うと、解釈は人の数だけあるとも言うことができます。

この姿勢を実験的ととるか、自閉的ととるか・・・
聴こえてくる音だけとってみると、前作よりは、若干開けた印象を受けます。
音の選び方に加えて、音の作り方、ミキシング・マスタリングの仕方に依るところも
大きいでしょう。


アルバムは全8曲によって構成され、前半4曲&後半4曲の二部構成のような曲調です。
前半の4曲は前作の流れをある程度汲んだ、前作にも入っていそうな楽曲。
しかし問題は、あるいは本題は後半にあるといえそうです。

後半は長尺の曲が多く、歌が少なく、インストに近いところがあります。
前作&前半はある程度「歌もの」なのですが、後半のヨンシーのヴォーカルは
歌というより、他の楽器の音色の一つかのよう。
そして何より、圧倒的に、「」にファインダーを当てています。
しかも、曲が進むほどに、その闇は深さを増していくのです。

冷え切って、うら淋しい、荒涼とした景色が連想されます。
日本でいうなら、3.11の瓦礫の山を前にしているかのような。
アイスランドでいうなら、前回の記事で、かつて火山の大噴火が起こり、
それによって捲き散らかされた火山灰が飢饉を招き、1/4の住民が亡くなり、
欧州からアジア、アフリカに渡るまで、何ヶ月もの間、空に火山灰が浮いていたという
エピソードを紹介しましたが、そのときのような、
骸の山、廃墟と化した街、灰色の空、そういった光景が眼前にあるかのような。

とても哀しいのですが、同時にどこか安らかでもあります。
前半の曲も併せて、前作よりどっしりした安定感が出ているからでしょう。
演奏の技量が上がったことや、経験値が増えたこともあるでしょうが、
全体的にゆったりとしたテンポで、間合いを大切にして曲を構成し、演奏しているのが
一番大きい要因かと感じました。

全体をたゆたう様々な音を緻密に構築し奏でる、キャルタンのキーボード/シンセサイザー。
時に流れるような、時にぼつりと大きな点を落とすような、ゲオルグのベース。
最低限の音を叩きつつ、曲の盛り上がり時で一気にピークに達するオッリのドラム。
そしてヨンシーのよどむギターと、嘆きと悲鳴の間を行き来するヴォーカル。
曲はじりじりと盛り上がり、畳みかけるように各パートが音の大地に降り立ち、
深い悲しみの感情の昂ぶりに連なって、音の塊が熱を増し、最後には爆発します。

アルバムの最後を飾る8曲目は、まるで火山の噴火や、激しく燃えたぎる薪のようです。


前作から、キーボーディストとしてキャルタンが加入し、
メンバーで唯一、本格的な音楽教育を受けていることもあって、バンドの音楽性が
飛躍的に上昇した結果が「アゲイテスト・ビリュン」でのブレイクでした。
前回の記事では、「シガー・ロスの音楽と、母国アイスランドの風土との繋がり」を
前面に出したかったために、音についての感想はほぼ割愛したのですが、
「アゲイテスト・ビリュン」は「色んな音が入っているなぁ」「沢山の手札を持って
いるんだなぁ」といった印象がありました。様々な背景があるというか。
比して今作「()」は、どの音を使ってどんな音楽をするか、ある程度一貫させて臨んだ
印象を持ちました。
一枚の背景をバックに、ひとつのモチーフを、4曲かけてどんどん展開させていくような。

但し、若干、前半と後半の関連や、前半の一貫性が薄いきらいもあり、
2曲目は後半に入っていそうな曲で、4曲目は希望の彩りが強い曲だったりします。
背景画を二枚書いて前半と後半に分けたか、
前半は前作の延長線上で作ったのか?
インスト傾向、静かで少し淋しい、という側面では後半と通じる部分があって、
一枚の背景画を違う解釈で描いたともいえますが・・・

前半でも後半でも共通しているのは、「ゆったり、どっしり、淡く儚い」というスタンス。
前作で目立った「ごうごう」と暴れるディストーションギターは抑えられ、
前作に入っていたようなオーケストラサウンドが特にないにも関わらず、
クラシックを聴いているような安堵感が得られます。
クラシックって、哀しげな曲調でもどこか安らかだったりしませんか。
緩やかなテンポで淡く紡がれる楽曲たちには、催眠効果さえあって、
リラクゼーションCDを紹介する記事にでも、眠れるCDとして登場させたいほど(笑)

季節に例えるなら、やはり
先日「南極料理人」という南極の基地を舞台にした邦画を観ましたが、そこで
アイスランドにも毎年訪れる、「極夜」の日々の場面がありました。
前回調べた通り、ほぼ一日中真っ暗で、みんな殆ど基地にこもりきり。
何となく暗いムードが漂いながらも、室内でワイワイ遊んだりもしていました。
本作がリリースされたのは冬や春ではありませんが、丁度そうした
アイスランドの冬の光景を切り取ったと捉えれば、前半の「少しの明るさ」も
納得できるかも。


彼らがなぜ闇に焦点を当てたのか、なぜ前半と後半が一貫していないのか、
どうしてアルバムタイトルや曲名がないのか、どういう心境の現れなのか・・・
音しか手がかりがない以上、全てはメンバーの頭の中、
もしくは私達リスナーの想像の中にしかないのでしょう。
あるいは、そんなことを探って聴くなんてナンセンス!音だけに集中して聴いてほしい
という意図が込められているのかもしれません。


ここまでのシガー・ロスは、玄人好みで陰鬱、ちょっととっつきにくいバンドでした。
しかし、続く次作で、がらりと趣が変わります。
「どうしちゃったの?」と言いたくなるくらいに。
暗闇から光へ。新しい輝きを放ちはじめたアルバムについて、次回書いてみます。



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