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シガー・ロス:その1 アゲイティス・ビリュン+アイスランドの風土「自然の美しさ、そして厳しさ・・・北極圏の小さな島国に想いを馳せながら」

自然は、人間を癒し、ときに人間に牙をむく。
とても美しく、同時に理不尽なほど残酷。
私達がこの1年でよく実感した事ですね。
だけど私達がつい忘れてしまっていたのは、人間は古代より、
こうした自然からの恩恵と戒めを、自然への感謝と嘆きを、繰り返してきた事実です。

そんな自然の空気を、みごと音に凝縮させたバンドがいます。
欧州の北の果て、北極圏の国、アイスランド出身のバンド、
シガー・ロス(Sigur Rós)
彼らの音楽は「ポスト・ロック」などとしばし括られ、前衛的な音楽アプローチで
構築され、例えばAmazonのレビューなどを覗いても難しそうな言葉でその魅力が
蕩々と語られていて、一見近寄りがたいような印象を受けます。
しかし、いざ耳にしてみると、ポスト・ロック界隈の知識がない一般リスナーにも
垣根なく届く、普遍性があるのです。
理屈抜きに耳が引き寄せられる、気持ちが音楽と同調する。その声に、そのサウンドに。

日本の公式HPによれば、ファンも、同じ畑の人間(ミュージシャン)から俳優まで幅広く、
ブラッド・ピット、トム・クルーズ、ナタリー・ポートマンなどの俳優・女優から、
デヴィッド・ボウイ、マドンナ、モービー、メタリカ、コールドプレイなどの
先輩・後輩ミュージシャンまで。
また、ビョークは同郷の先輩後輩として交流があり、
レディオヘッドのトム・ヨークやジョニー・グリーンウッドは彼らの音楽に
いち早く目をつけ、ライヴのオープニングアクトに抜擢し、世界的ブレイクの
きっかけを作ってくれた存在です。


シガー・ロスの実質的世界デビューアルバムで、かつ、傑作と名高いアルバム
アゲイティス・ビリュン(Ágætis byrjun)」を聴きながら、
彼らが音楽におけるアイデンティティとして常に大切にしている
母国アイスランドのことを、少しだけ調べてみました。
シガー・ロスの歌詞はいつもアイスランド語(+独自の言語「ホープランド語」)で、
その音楽も「アイスランドを思わせる」と評されることが多く、
彼らの音楽に近づくためには、アイスランドについて知ることが必要だと考えたからです。

アゲイティス・ビリュンアゲイティス・ビリュン
(2001/10/03)
シガー・ロス

商品詳細を見る

アルバムでは、歓喜の感情と陰鬱とした感情とが交錯しています。
かつてジミー・ペイジが「幻惑されて」で披露したギター奏法「ボウイング奏法」を
前面に出した、ヨンシーの奏でるごうごうという音色が、不穏なインパクトを放ち、
ヨンシーの歌声も天使のようなファルセットから地鳴りのような唸り声まで、まさに七色。
聴いていると、なんとも表現しがたいざわつきを覚え、二重人格性も感じるのですが、
それが「アイスランドらしさ」なのか?


アイスランドは、日本の北海道と四国を合わせた位の大きさの島国で、
国土の一部は北極圏にかかっています。
冬至が近づくと、一日に4時間程度しか太陽が昇らず、
逆に夏至の頃には、数十分間しか陽が沈まない
のだそうです。
北の果てにあるにも関わらず、スカンジナビア諸国よりずっと暖かく、
(島が火山島であるのと、島を囲むように暖流が流れているため)
オーロラが見られるのと同時に、温泉も沢山あるという不思議なところです。
漆黒の冬場、人々は家にこもって読書に励むため、文学や詩に親しむ環境に恵まれ
シガー・ロスやビョークをはじめとする、音楽家や文学者を
小さな国にも関わらず、沢山輩出しているんだとか。

海洋プレートの生成が地上で見られ、その大地の裂け目は「ギャオ」と
呼ばれるそうで、火山活動が盛んなのはこうした特徴のため。
噴火による災害にも幾度となく見舞われ、噴火で飛び散った火山灰が飢饉を招いて
住民の1/4が亡くなり、その灰は何ヶ月も欧州、アジア、アフリカを覆うという
大災害もあったそうです。近年でも噴火によって、欧州を中心に
世界中で航空機の運用に大きな影響を与えるなど、活動は現在進行形。
また、失うばかりではなく、海底火山活動によって新しい島が出来るといった
「誕生」も、火山活動がもたらしたものです。

シガー・ロスのメンバー達のふるさとは、首都レイキャヴィーク
世界的にも「空気のきれいな都市」とされているところです。
地熱の熱エネルギーを活用し、更に「水素ステーション」によって
水素で路線バスを走らせるなど、クリーンエネルギー政策は世界最先端。
何か、凄く閉ざされた謎めいた国のようなイメージがありますが、
実際はなかなかイマドキの都市のようです。
(但し、人工は都市に集中し、自然だけが取り残されたがらんどうな地域も多い)
大都市で、街中で、普段着でオーロラを楽しめてしまうという
羨ましくなる特色もあり。住民にとっては何も珍しくないんだとか。
一度行ってみたい・・・!
「行ってみたい」となると言葉の問題が出てきますが、
驚くべきことに、アイスランド人のほとんどがトライリンガルで、
母国語はアイスランド語ながら、小学校から英語とデンマーク語を習うそうです。
(デンマーク語が出てくるのは、かつて宗主国であったため、
英語が出てくるのは、アイスランド独立後~冷戦の期間に米軍が駐留していたためか)
片言の英語で、何とかなるかなぁ?


さて、個人的なアイスランドへの憧憬は置いておいて、
(それもシガー・ロスに惹かれる大事な理由でもあるのですが、話を進めるために)
今辿ってきた、アイスランドの風土が、シガー・ロスの音楽、
今回の場合は「アゲイティス・ビリュン」において、どう反映されているのか
考えてみましょう。


前衛的、実験的なアプローチをとる「先鋭的なバンド」という点では
レイキャヴィークの意外なほどの先進ぶりや、同郷の先輩ビョークからの影響などが
あるでしょう。ミュージシャンが多く輩出されている国なら、その分だけ
音楽も沢山入ってくるでしょうし。

そして、「歓喜と陰鬱の二面性」について。
アイスランドは火山活動に翻弄され続けてきた国です。
火山活動によって誕生した島がある一方、
降り注ぐ火山灰によって飢え死にした民も多くいました。
誕生の歓喜と、死の悲しみ、
自然がもたらした恩恵への感謝と、自然の理不尽な仕打ちへの嘆きとを、
古くから繰り返して、現代でもそれが続いています。

また、豊かな文化が培われる一方で、小さな島と暗闇に閉ざされてもいます。
新しいものを見つけたり、作り出したりする歓びと、
世界から立地上ぽつりと孤立して、漆黒の孤島に閉じこめられている息苦しさと。
遠いところから眺めている分には「いいなぁ」と憧れるものですが
住み続けていると、恐らくそのような鬱屈に悩まされることでしょう。

他のアーティストや、彼らのもう少し後のアルバムと比較すると
一つのアルバムの中で自己矛盾や精神分裂が起こっているように感じられますが
自然という猛者は予告なしに怒り猛りながら、予告なしに変化や誕生を生みだし
そこには人間が思い描くような脈絡や道筋などない
のです。
そんな自然と分かちがたい運命にある、アイスランドの風土を音楽にするなら
自ずと、歓喜、祈り、憤怒、嘆き、変調、再生が盛り込まれるはず。
彼らが「アイスランドの風土を音楽にするぞ」とどこまで考えていたかは
わかりませんし、全く思惑になかったかもしれないのですが
無意識レベルで、アイスランドの風土をその音楽に取り込んでしまったことは
音楽と風土とを照らし合わせてみて、かなり明白であるように見えます。

シガー・ロスはこのアルバムを通して、
自然とそれに対峙する人間の喜怒哀楽を表現してしまったのだと思います。
しかも、古代からの自然と人間との営みにも近いようなものを。
ごうごうと渦巻くボウイング奏法による轟音は、火山噴火や、人の心の燻り。
天から降り注ぐような神々しいファルセットの歌声は、恵み、誕生、人の歓び、祈り。
ときに、いにしえの儀式を垣間見ているような気分になります。
そしてときに、世界で最も空気の綺麗な都市で見られるオーロラのような
さいはての地でしか見られない美しい光景を間近で体感している気分もします。

曲調は実は、祈り→歓喜→淀み→嘆き→再生→安らぎ、という順序を辿ってもいて、
「不安定で根暗なアルバム」と片付けるのは尚早です。
Ágætis byrjun=「良き船出」という意味なんだそうです。
どうして、この暗さが目立つ少々自閉的なアルバムにこんなタイトルがついているのか
疑問をもっていましたが、背景まで深く深く探ってようやっと見えました。
自然が、生まれ、暴れ、やがて再生して新しく歴史をつくる。
あるいは、あの、暗闇でからだを丸めた胎児を思わせるジャケ。
命を授かり、苦しい思いをして母体から産まれ落ち、育っていく。
「自分の中にある残酷な自然」の発見と、その受容ともとれるかもしれません。
もしかしたら、全て胎内の羊水という海の中での出来事かも。
いかようにも解釈できそうですが、彼らの中で確かなのは
これは光だ」ということ。
ちょっと、わかりづらいけど(苦笑)


このバンドは、アルバムを重ねるごとに、どんどん変容していきます。
それに伴って、音楽の土壌にある価値観も変容していることでしょう。
今回書いた「アイスランドの風土との繋がり」は、薄れていったのかもしれないし
初めからそんなものは私のただの深読みで、ヨンシーたちの心象風景を音楽にしたら
こうなっただけかもしれません。
しかし、彼らの音楽を理解するのに大事な「いち要素」をしっかり見つめたことは
彼らの音楽の魅力の源を把握する為に、とても有意義な過程だったと思います。
読んでくださった方にも少しでも「なるほど」と感じていただけたなら
尚更です。
私は楽器をやらないので、音楽について音作りの面から論じることが難しいため
「ポストロック」系統の音楽を言葉にするのはとても大変です。
自分に出来るアプローチで挑むのみです・・・次作以降の記事でも。



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