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Salyu:その0 Lily Chou-Chou -呼吸- 「ダウナーに溺れず、バランス感覚に優れた通好みの一枚。今からは想像もできない、儚い歌声」

かねがね好いている邦楽女性シンガー、Salyuが4thアルバムをリリースしたそうで
それに乗じて、これまでの彼女の作品を振り返って、コツコツレビューしてみようと
思います。

彼女のシンガーとしての歴史のはじまりが、本作。
Lily Chou-Chou(リリィ・シュシュ)」というユニットのシンガーに、
当時歌の修行中だったSalyuが大抜擢されたのです。
岩井俊二氏と小林武史氏(以後コバタケさん)が中心になって制作された、どダウナーな
リリィ・シュシュのすべて」という映画のために作られた仮想ユニット。
悩み多き少年たちの救いとして、「リリィ・シュシュ」というカリスマシンガーが居て・・・
という設定で、歌声は何度も流れど、歌い手の姿ははっきりと映らず。
劇中に出てきたこの架空のシンガーのアルバムを、実際に作っちゃったわけですね。

昔mixiをしていたことがありましたが、音楽通の層に人気だったのが
このアルバムのコミュでしたっけ。
「Salyu」より、通好み(ロック系、洋楽系好み)のようです。

お気に入りで、よく部屋に飾っていたのですが
今となっては、「平清盛」のオープニング映像を連想せずにはいられないジャケ(笑)

呼吸呼吸
(2008/11/26)
Lily Chou-Chou

商品詳細を見る

一説には、リリィ・シュシュのモデルというかイメージはCoccoだったとか。
Salyuの「縦に鋭角的に刺さるのでなく、横に拡がって奥深く響くタイプの声質」は
確かにCoccoとかUAに通じるものがあります。


技量としてはまだまだ拙く、Salyu名義でリリースしたアルバムにあるような曲は
この頃の彼女では歌いこなせそうにない感じ。
しかし、コバタケさんはそこを実にうまーく使ったんですねぇ。
素材」として。

全体的に、囁くような、呟くような歌が目立ちます。
あるいは、童歌を思わせる、純朴な歌。(このあたりでCoccoを意識したかな?)
テクニックではなく純粋な声質、素材がモロに活きるように。
繊細で壊れそうな表現は、後年テクニックや声量をつけてからでは再現しがたいような
「未熟だからこそ、少女だからこそできる」絶妙なさじ加減。
未熟な少女である今しかできない、と言ってもいいかもしれません。

霧もやに包まれたように、ぼやけて、不安定で、少し淋しげ。
「リリィ・シュシュ」という映画の世界と上手にリンクします。
しかし、映画はこれでもかというほどに少年少女の闇、病みをえぐり出していて
DVDで観ていたら、当時の恋人に「そんな映画を観てるからあなたは暗いんだ」と
強制的に停止させられ、続きを観られなくなったこともあったぐらいで(苦笑)。

その一方、このCDは、思春期の少女の不安定さ、頼りなさ、ぼやけた感じは出しつつ
音楽それ自体は実はそんなにダウナーじゃない
んですよね。
曲調は多彩で、マイラバやSalyu期にありそうな、ファニーでポップなタッチのものもあって
音使いも、デジポップ~ロック調だったり、アナログな質感のロック~ポップだったり、
またその合間だったりと、ちょっぴり実験的といってもいいような面白さ。
しかも、今に至るどの時期よりも、セクシーさが出ていたりするのが興味深い。
エロティック」や「飽和」がそう。揺らぎや危うさが、たまらない魅力になっています。
そして映画とのリンクが強い、詞からしてダウナーだったり、不安な心情を表現した曲では
シンプルでやや淡泊なバンドサウンドで、さらりと包み込む。
「不安定で壊れそうな季節」の表現はSalyuの歌声ひとつだけに任せ、
周りはあっさりと、かつ安定させてまとめているので、ダウナーになりすぎない。

このように、コバタケさんは「いち音源としては、ポップなバランス感覚を忘れない」
という所を大事にして作っていて、かつ実験的な匂い、ダウナーな匂いもちらつかせ。
それが、本作が通好みの唸る名作たる所以といえましょう。

Mr.Childrenの桜井和寿氏が後年、「いいなぁ その声」と表現したように(うまい!)
「ダイヤの原石」だったこの頃から既に、一発の声で人をハッとさせる「何か」が
宿っている
ことを、再聴して改めて実感しました。
異国のことばで歌われる「アラベスク」や、歌詞のない「回復する傷」などに
とりわけその「天性の声という才能」を感じて、じっと聞き入ってしまいます。

映画の中でこれらの曲が流れている時は、「カリスマシンガー」ぽい雰囲気がありますが
CDとして聴いてみると、えっ、カリスマ?そう呼ぶにはちょっとポップ&頼りないような。
寧ろ身近な代弁者みたいな感じです。
でも、「アラベスク」などの数曲には歌声にもサウンドにも神々しさが感じられ、
また、静謐な祈りのような曲「回復する傷」は、あの「キル・ビル」にも使われたとか!
タランティーノ監督がSalyuの歌声に聞き惚れて、採用したようで。
全然気づきませんでした。「回復する傷」探しに「キル・ビル」見直してみるか?(笑)


このアルバムを聴いた人、買った人は、その後「中の人」Salyuが
現在のような溌剌としたパワフルな方向性で活躍をしていくとは、
いや、「その後」があるのかとは、考えもしなかったのでは・・・。
こんなふうに企画もので出てきて、それっきりで終わる人って多いから。

因みに、「リリィ・シュシュ」プロジェクト、これっきりかと思いきや
近年また復活してたみたいですね。配信限定で新曲リリースしたり、ライヴやったり
してたそうですよ。
ここにはなぜか、岩井俊二監督はおらず、新しくギタリストさんが加わっていた模様。


さて、次回は、いよいよ第1回目。(今回は0回目なのです)
「リリィ・シュシュ」というプロジェクトの「素材」ではなく、いちアーティストとして、
Salyuのうたの歴史が始まります・・・!



良質なおまけ。「リリィ・シュシュのすべて」のサウンドトラックです。
「リリイ・シュシュのすべて」 オリジナル・サウンドトラック『アラベスク』「リリイ・シュシュのすべて」 オリジナル・サウンドトラック『アラベスク』
(2008/11/26)
V.A.

商品詳細を見る

繊細で美しいピアノの調べが多いです。オリジナル曲に加え、クラシックのカバーも。
唐突に、あまりうまくない「翼をください」の合唱があるのはサントラのご愛嬌。
ここでも、映画のダウナー具合を反映しすぎず、上品さでまとめているのはさすが。
眠る前のひとときにもよく合います。



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