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【漫画】久住昌之&谷口ジロー「孤独のグルメ」感想

もはや国民的作品といえそうな漫画、原作・久住昌之、作画・谷口ジロー「孤独のグルメ」。
そのコミックスを探すのが少々大変だったのです。
コミックスは基本、レンタル派だから。
それで出費を惜しみつつ、中古の本屋さんに行ったら、おお、難なく発見。
ちょっと高くついたけど、クオリティの高さに圧巻で、これはこれで
よしとしました。
そして一気読み、感想となるわけです。



孤独のグルメ 【新装版】孤独のグルメ 【新装版】
(2008/04/22)
久住 昌之

商品詳細を見る

「新装版」と銘打ってある理由は、1994年~96年に連載されて一度完結し、
コミックスも発売されながら、2008年に復活し、その復活作も1話収められているから。
連載当初・コミックス発売当初より、時間が経ってネットで高い評価を得てヒットした作品。
そして、この評判をもとに、ドラマ化が実現したのが2012年(Season1)となる。
私はSeason3あたりからリアルタイムで観て、Season1~Season2は再放送で観たと思う。
「原作も読んでみたい」との思いが募るなか、やっとコミックスの発見に至ったというわけだ。

・ドラマで馴染んでいたので驚いたこと
このように、完全にドラマから入った人間が原作を読むと、当然、発見と驚きまみれになる。
以下、いちいち驚いたことを伝えていきたいと思う。

・チョイスをしばしばしくじる
ドラマではリアルタイムで実在するお店を取り上げているため、お店に悪いイメージのつくような
エピソードは当然ながら放映できない。
しかし、漫画では(こちらも当時実在したお店を多くモデルにしているにもかかわらず)
多くの人が外食でやりがちなミスを五郎もしょっちゅう犯すのだ。
#6では新幹線のなかでジェットシュウマイ(テープを引っ張ってその場で温める弁当)を頼んで
車内がシュウマイ臭くなり、乗客に笑われたり、
#15ではコンビニで夜食のお総菜をたくさん買いすぎた挙げ句、おでんとうずらと卵焼きで
卵がダブってしまったり(ダブりエピソードは他にも沢山ある)。
考えて頼んで・買っているつもりでも、こういうのあるある。

・穏やかな五郎、まさかの喧嘩!
ドラマの五郎からは想像もできない場面で、とても驚いた。
だから松重豊さんが五郎になったんだ、と妙に納得したが(笑)。
#12、あるめしやで留学生の店員を大声でずっと怒鳴る店長に、五郎、正面から抗議。
あの大食いの五郎がほとんど食事に手が着かない有様。
「帰れ!」と怒鳴り、胸をどついてくる店長に対し、五郎は武術の技をかけて圧勝。
こんなこともあるんだ・・・・・・問題作。ドラマじゃまずできないエピソード。

・お店での食事が主役にならない
ドラマでは、食前に甘味処に寄ったりするが、主役は一つのお店での飲食の様子。
しかし漫画では、食が脇役になることもたまにある。
#14では、行こうと楽しみにしていたお店がなくなっていて、別のお店で食事をするが
おいしさもどこか上滑り、探していたお店に行けなかったやるせなさが上回る。
#13では食事はほんの一瞬、主役は夏の暑さと甥っ子応援のための甲子園観戦。
ドラマ同様、食事を中心に据えてはいるが、漫画は食事とともにある一定時間を
ドキュメンタリーのごとく切り取っているともいえるのだ。

ハードボイルドな一匹狼
ドラマの五郎は漫画のそれと比べて性格が柔和になっているという。
漫画はひたすらモノローグと独り言で構成されているが、そのモノローグが
ハードボイルド作品の語り口を思わせる。
例えば#2の冒頭。

輸入雑貨の貿易商を個人でやっている俺だが
自分の店はもっていない
結婚同様 店なんかヘタにもつと
守るものが増えそうで人生が重たくなる
男は基本的に体ひとつでいたい


不器用で結婚できないのか?という印象のドラマ五郎と違い、漫画の五郎は
自らのポリシーに則り、望んで一人でいるようだ。
その話のラスト、ニヒルに煙草の煙をくゆらせて振り返る表情はナルシストぽくもある。
また、#7では大阪に出張で行って、客に話しかけられても「はあ」、
大阪流ジョークを振られても「あ・・・そうですか」とつれない。無口な男である。
たびたび、昔の映画や文学作家を回想する場面もあってシブい(#3、#7)。

・食事をする前後、最中の心の流れに密着
漫画では仕事中の五郎の姿は一切出ない。
腹が減る→お店を探す→メニューを選ぶ→客や店員を観察する→
来た飯を観察→味わう→食べ終える、ただただこの過程をねっちり追っている。
満足したり、不満だったり、迷ったり、焦ったり、後悔したり、幸せだったり、
食事をするときの人の心の動きを仔細に描写している。
しかしまあ五郎は頭のなかでよくしゃべる、ひとりごとでもよくしゃべる。
ドラマでもそうだけど、漫画でも、時々笑ってしまう。

・料理のディテール、店内のディテール
・コミックスの半分くらいの回で、頼んだ料理について詳しく説明している。
例えば、#16の「月見おろしうどん」の説明はこうだ。

たっぷりの大根おろし
揚げ玉がうれしい
ツユは薄めの色 味も塩味でアッサリ
ネギは関東風に白ネギ
一味を自分でかける(寒いのでタップリめ)
生卵 熱ですぐ白くなる
麺は確かに手打ち風 カドが立っていて しっかりしている


これらの文言を、ひとつひとつの具材のうえに書いてある。
食べたくなる臨場感。絵もリアルで、実においしそうだ。

・店内の客の観察もいつも細かい。
#1では「みんな帽子を被っている」
「この店の中で食う客ってのは ほとんど飯より酒なんだな」という具合で、
小説を読んでいるような錯覚に陥る。

・描き込みの量が半端ない。
否応なしに立ち上る感嘆とリアリティ。
とくに#8の工業地帯、#17の秋葉原の商品の山などは圧巻。

・食べたくなったもの
「深夜食堂」に続き、ここでもやってみた。
なすのおしんこ/とん汁/豆かん/いくらどぶ漬け/岩のり/饅頭/
シウマイ/たこ焼き/焼き肉/江ノ島丼/ハンバーグランチ/
ウィンナーカレー/コンビーフ/コンビニおでん/冷奴/卵焼き/
月見おろしうどん/かつサンド/餃子/焼きそば/
白飯、ジャガイモのみそ汁、野沢菜/
コッペパン、ピーナツマーガリン、トマト味の野菜スープ、バナナ/
うん、きりがない(笑)
「深夜食堂」の絵は描きすぎない余白が「うまそう」をもたらすのに対し
「孤独のグルメ」は、徹底的な描き込み、五郎の観察の台詞によって
おいしそうに見える、思える。
この対照的な漫画、両方好きと感じられるのがなんとも幸せである。

・五郎のイデオロギー

・食の自由と権利

モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか
救われてなきゃあ ダメなんだ
独りで静かで 豊かで・・・・・・


#12の、店主と喧嘩するシーンの台詞である。
店主に「なにをわけのわからないことを言っていやがる」と反論されており
五郎、そこまで熱くならなくても、店主の反論ももっともだ、と苦笑も出るのだが、
このシーンで五郎が主張している内容は深い。

・食がいのちをつくる

生きているというのは 体にものを入れてく ということなんだな


特別編、五郎が怪我をして入院したときの食事、隣のお爺さんは
スプーンで看護師さんに食べ物を柔らかく砕いてもらい、
弱々しい音をたてながら、それでもひとり食べる。
その様子に耳を澄ませながら五郎が思ったことである。
食への愛に殉ずるあまり、たまに暴走しながら、哲学を持って五郎は食べ、
我々は五郎の哲学を通して「食べるとは、生きるとは」を考えさせられる。

・五郎が私たちに教えてくれるもの
食への愛はいうまでもなく、街めぐり、店めぐりの色合いも強い漫画で、
広い意味での愛、人生愛に溢れた漫画である。
食べっぷりがいい五郎だけど失敗も多い、そういう失敗も含めて
食という行為を慈しむ。
ささやかな日々を等身大で受け入れて楽しむ。
楽しいだけじゃないけれど、好きで大事なことを楽しむ。
人間としての力が漲っている作品だ。



かつて、胃を壊して何も食べられない状態に陥ったとき、
ドラマ版「孤独のグルメ」に救われた、という記事を書きました。
そして今、私は正体不明の慢性的な胃痛に悩まされています。
せっかく胃を治したのに、なぜか痛い。お腹が減らない。
食べても満腹感がない。そもそも自分の周りの何もかもに手ごたえがない。
病院で薬をもらったけど、効いているようなあまり関係がないような。
食事量と胃痛にあまり関連がない。
心の問題?錯覚?幻覚?どうなっているの?どうして?どうして?
そんな苦痛のなか、今度は漫画の五郎に救いを求めようとしています。
養生という要素もあり、「食べたいように」だけではいけないと思いますが
食べたいときにはワーッと食べてしまうことにしています。
だって、食べるって、こんなに楽しいんだもの!
その感覚が今にも薄れそうになっている今だからこそ
また「孤独のグルメ」を読み返したり、他のグルメ系小説を読んだりしようかと。
食の喜び、楽しさに一度目覚めたら、そうたやすくは無関心に戻れないのです。
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