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ジェフ・バックリィ:その3 素描「モノクロのスケッチ集に皆で色をつけて完成したアルバムは、思い切った新機軸の意欲作になるはずだった」
関わらず、1994年に発売され大ヒットを記録した1stアルバム「Grace」は93年冒頭に完成、
その後の4年間で、Jeff Buckley(ジェフ・バックリィ)は、前回紹介したような
ワールド・ツアーに出ながら、たくさんの曲を書き、頻繁にレコーディングしていました。
バンド・メンバーなどとスタジオ・セッションをしたり、自宅でデモ音源を録音したり、
ライヴ・パフォーマンスを録音したり、ラジオ番組に出演したり・・・
とっくに2ndや3rdアルバムがリリースされていてもおかしくはない期間と勢いでしたが、
前回紹介したツアーへのあまりにも深い思い入れを考えると、ツアーの期間は基本的に
ツアーに集中していた可能性が高そうです。そんなワールド・ツアーが95~96年にかけて。
そして、97年のあの運命の日へ。
ジェフとバンドメンバー、それに前作プロデューサーのアンディ・ウォーレスは
6月からメンフィスで2ndアルバムのレコーディングにかかる予定でいました。
バンドメンバーでギタリストのマイケル・タイへの電話・・・生前最後の電話・・・で
ジェフは「新しい曲をたくさん書いたよ!」と有頂天になっていたとのこと。
バンドメンバーが飛行機でジェフのもとに来る日、ジェフは友人とランチに出かけた後
夕陽を見ようと車を走らせてミシシッピ川へやって来て、いきなりブーツをはいたまま
ひと泳ぎしようと、一見した感じでは穏やかな川に足を踏み入れ、友人が気付いたら
ジェフは行方不明になっていました。
そして5日後、溺死体として発見されたのです。享年30歳、早すぎる死でした。
葬儀の後、ジェフの財産管理人として、彼の母親・メアリーが任じられます。
メアリーが管理する「財産」にはジェフの遺した音源も含まれます。普通のママには
とても荷が重そうなうえ、一般的にみても極めて異例な人選でもあるのですが、
そういえばジェフの父親=元旦那のティム・バックリィはミュージシャンでした。
更に自身もピアニスト兼チェリストだったというのだから・・・!
その辺りで、音楽を、あるいはミュージシャンの心情をよく理解した選択、レーベルの
金儲けの為に音源を乱発するような真似をしない賢明な管理が可能なのでしょう。
遺された人々が「未完の2ndアルバム」を世に出すために与えられた材料はこちら。
① トム・ヴァーレンのプロデュースの元、バンドメンバーと共に
正式なスタジオ・デモ制作を3度(非公式のものを含めると4度)行った際の楽曲
② ①のセッションに納得できず自らプロジェクトの手綱を握ると決めたジェフが、
小さな借家の4トラックレコーダー相手に新たに生みだしたデモ状態の楽曲
③ 「MY SWEETHEART THE DRUNK」というタイトル案
このうち、アンディ・ウォーレスが中心になって、①のセッション音源をミックス。
そして、メアリーはジェフの長年の友人のエンジニア、マイケル・クロウズの手を借り
何時間にも及ぶ②の荒削りで未完成な録音物を試聴、そして保存するという
手間がかかる上に①のクオリティにとても及び得ない大変な作業を進めました。
明けて98年、CD2枚組というコンセプトに加えて、レパートリーの全体図も確定。
<DISC 1>①の内容のウォーレス・ミックス
<DISC 2>①のオリジナル・ミックスやクロウズの入ったセッション、②の音源、
葬儀の幕切れの際に使用された、ジェフの歌うカヴァー曲「SATISFIED MIND」
かくして「全てモノクロにしてあるから、バンドは色彩を提供してくれるだけでいい」と
ジェフが言っていたスケッチ集は、多くの人達が輪郭をなぞり、色を塗り、仕上げを施して
「Sketches for My Sweetheart the Drunk(素描)」
として世に出ることとなりました。
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ジェフって芥川龍之介みたいなイメージが個人的には湧きます。
天才と騒がれ、そこそこ色男なのだけど、どこか薄幸、
精神病説がある(芥川=統合失調症、ジェフ=双極性障害)、夭折。
今回の連載の3作品におけるジェフの姿を見ていたら「ムラっ気のあるイケメン」とも。
見栄えのする写真と「あれ?」な写真との落差が激しすぎます。
髪を伸ばすと別人のように印象が変わるし、やっぱり不思議な人。
肝心の音ですが(前置きが長すぎましたが)、音楽性が1stとはかなりの別物になっていて
かなり驚かされます。が、4年間の足取りをこうやって辿ると、4年前と同じような方向性を
もう一度やりたいとは思わないだろうな、実験やイメージチェンジをしたいだろうな、と
納得はいきます。
1stは大人しい音遣いながらかなりエモーショナルで、表現自体はグランジ/オルタナと
通じる面が多々あったのですが、本作には荒ぶる魂や昂ぶる歌はあまり出てきません。
かといって「Hallelujah」のようなしっとりしたバラードが多いわけでもなくて。
はっきりとした喜怒哀楽ではなく、それらの合間のグレーな感情や感覚を取り出して
淡く滲んだトーンの楽曲や歌唱が殆ど。これはジェフが4年間で大人になったのも
あるのだろう、と思ったけれど、デモ音源のジェフは結構不安定なので一概には言えず。
そして最も印象的で驚くのは、音とりわけギターがとってもUKロック寄りであること。
ライヴアルバム「即興」にてスミスの曲を「Halleluyah」に混ぜた辺りからその兆候が
みられますが、なかでもとりわけ80年代NWっぽいギターの楽曲が多め。
今回のテーマは「UKロックぽいでしょ、NWぽいでしょ」だったのかもしれません。
ギターにキレがあってそこにも魅せられます。アルバム曲の作者にバンドメンバーの
ギタリスト、マイケル・タイとの共作がぼちぼち目立ち(前作にもありましたが)、
彼の影響なり貢献なりもある程度大きいのではないかと推測しています。
DISC 1の音源は何曲か「RadioheadのThe Bendsか?」と聴き紛うようなものもあって、
ジェフとトムは頭の中が繋がっているのだろうか?と、不思議なシンクロを感じます。
この後ジェフが音響にハマっていったら「OK COMPUTER」や「KID A」が出来たりして??
そうかと思えば#2なんかはAORやソウルの香り。以前からジェフの歌唱をソウルフルだと
感じる瞬間は数多くありましたが、ロックからここまで逸脱するのも驚き。
でもこのような方向性を更に推し進めてみても面白かったかもしれませんね。
音楽性は大体DISC 2でも同じですが、ジェフのデモ曲はやや内向的なきらいがあり。
カート・コバーンが猟銃自殺の寸前に口ずさんでいそうな楽曲もあるし。
一方で、カラッとした曲調で「きみのからだは素敵」と繰り返すような曲も。
メアリーがどんな心境で息子のこのような曲を聴いたのかちょっと気になります(笑)。
ライナーノーツを書いた人に同意で#10「JEWEL BOX」はとても美しいメロディで、デモの
状態にも関わらず宝石のように輝いています。このままでアルバムに入っていてもよさそう。
この曲だけ別物のように綺麗ですが、他の曲は全体的にエフェクターをギターにも歌にも
あちこちかけまくりで、エフェクトを強くかけたサウンドでの実験がデモの目的だったのかも。
そして歌詞は全体的に心なしか幻想的、抽象的なものが増えている印象です。
ラブソングの体裁をとった、諦念や退廃的な情景の描写が多いのは、
ジェフが大人になったのかそれとも不安定になったのか?
死には双極性障害からくる自殺説がありますが、それも「もしや・・・?」と疑ってしまうような
自分の死をほのめかしたり想像したりするような曲もぼちぼち。
そんな不安をなだめるような大トリ、DISC 2の最後の曲「SATISFIED MIND」。
カヴァー曲ですが、死や人生に対する豊かで希望のある見地の詞に救われます。
あの日、葬儀に参列していた人達もこの曲に少なからず救われたのでは。
前作ほどのインパクトがなく、ジェフのあの高音が登場する必然性が微妙な曲調で、
DISC 1の最初や最後のほうで披露されてやはり素晴らしいけれどもう珍しくはなく、
そこを考えると、普通に販売されていたらもしかしてセールスこけていたかも・・・
そうなると3rdで巻き返し、となるでしょうが、そういう流れ自体、既に結構苦しい。
下手すると「Grace」や「Hallelujah」だけの一発屋という認識の二流アーティストに
成り下がって、二軍落ちしてしまうかもわからないというのが正直な見解です。
悪い作品、つまらない作品ではないのですがね。「売れるかどうか」という観点で。
でも、そういった反響が予想できたとしても、ジェフはこの新機軸を譲らなかっただろうし
例え売れなくなっても、食べていくのすらギリギリでも、あの高音が劣化してしまっても
ギター片手に各地を転々として歌い続けているのは確かなことなんじゃないか
という気がしてなりません。
だって、ジェフはそういう人だから・・・
94年11月にジェフにインタビューした、「即興」のライナーノーツを担当したライターさん曰く
美しくて、繊細で、気さくで、愉快で、
女好きで、セクシーで、予想がつかなくて、
極度の音楽オタクで、完璧主義者で、自分に誇りを持っていて、
生きることに情熱的で、エンターテイナーで。
5分も話したら誰でも恋してしまっただろう。男女に関わらず。
というキャラクターだったというジェフ。
運命は彼が生まれて死ぬまでろくな仕打ちをしなかったけれど、
周りの人達にとても恵まれ、好かれていたことがわかるエピソードに溢れていて。
ままならぬ人生でも勇猛果敢に挑み、集中して臨み、ときに酒と女をよく嗜み・・・
どんな運命でも、どんなふうにでも生きていける。
そんな希有な運命と生き方を真空パックした彼の音楽や、その存在からは
考えるところ、学ぶところが、これからリピートして聴き続けるほどに
たくさん沁みてくるような予感がします。
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コメント
未完の遺作
なんたる光栄!
おぉっ、普段邦楽派のかげとらさんが洋楽をお聴きになるとは、
しかも私のblogをきっかけに試聴されるとは・・・光栄です。。
心に突き刺さるものを感じられたとのこと。
訴えかける力が強いアーティストですよね。
未完の遺作を作曲している頃でも、純真でストイックな
アーティスト魂は損なわれず、尖って意欲的な言葉を幾つも遺しています。
初めて聴いた時は強烈な高音域と憂いのあるメロディが印象的でしたねぇ。
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燃える朝やけさんのブログの解説がなければ、英語なので
よくわからなかったと思うのですが、試聴してみたのですが、
何か心に突き刺さるものを感じました。