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ジェフ・バックリィ:その2 即興~Mystery White Boy Tour~「ジェフの真髄、最も純度の高いパフォーマンスが煌めく一瞬一瞬」

Jeff Buckleyジェフ・バックリィ)のライヴCDは、他にも数枚出ているっちゃいますが
正規の扱いはやはりこちらかと。
95年~96年にかけて行われた大規模なツアーの中から、ジェフの死後、遺族やバンドメンバーが
「総合的に突出している」コンサートを選び、その中から「超絶した瞬間を捉えている
個別のパフォーマンス
」を見つけ出した超豪華セレクション。

即興~Mystery White Boy Tour~即興~Mystery White Boy Tour~
(2000/05/24)
ジェフ・バックリィ

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「Mystery White Boy Tour」になぜ「即興」という日本語題がつくのか、という
謎も残りつつ(これは次回とりあげるであろう「素描」にも通じる。ま、意訳だろうが)
期待を裏切らない壮絶な音と声、豪雨のようなバンドサウンドや魂の咆哮に
息を呑み、圧倒され、1stアルバム「Grace(グレイス)」で聴いたことがある曲を
もっと好きになって、初めて聴く曲ではジェフの新しい顔に出会って・・・
個人的に気に入ったのは、#2「I Woke Up In A Strange Place」と#7「Eternal Life」。
前者は本作だけで聴ける曲のひとつで、冷たい風のように容赦なく吹きつけるひりついた空気。
後者はオリジナルでも異色のロック・チューンが更に激しくアレンジされてテンポもアップ、
ハードロック~エモバンドのように勢いと激情が炸裂して、いっそ爽快なほどです。

ジェフは、ひとつの曲を二度同じようにプレイすることはなく、セットリストもなく、
始まった時とは違う曲で終わったり、始終歌詞が変わったりするのだそうで、
実際、英詞をなぞりながら聴いてみると、合う場所と合わない場所があったりします。
曰く「僕には音楽をコントロールすることなど出来ない」。
格好良い言葉ではあるのですが、バンドメンバーやスタッフは苦労が絶えないだろう・・・
「Grace」リリース後、段々有名になっていきますが、それにも関わらず
極力小さな会場を選んでプレイ。テンションと心地良さが絶妙なバランスで溶け合った空間を
作り続け、観客との接触を常としたのです。

「唯一のゴールは過程にある。かすかな光の煌めきを伴った過程こそが重要なんだ。
その煌めきがギグであり、ライヴ・ショウ・・・・・・それは狭間を生きること。
僕にあるのはただそれだけ」


ジェフが、「グレース」EPKによせた言葉です。
ジェフにとっての全て、それはステージでの一瞬一瞬。だからこのアルバムには
ジェフが至上としてきた最も純度の高いパフォーマンスの結晶が詰まっているのです。

「二世歌手」ということで苦労もなくデビューしたイメージもありそうなジェフですが
デビューは20代後半ですから、結構、売れない期間が長く続きました。
幼少期から母親の影響で音楽に親しみ、高校生の頃はジャズ・バンドに所属。
高校卒業後、ハリウッドに移住し、音楽学校『ミュージシャンズ・インスティテュート(MI)』に
入学、1年の過程を終了。その後はホテルで働きながら様々なバンドでプレイしました。
しかし芽は出ず、歌う機会もせいぜいコーラス程度と、認知されない苦境に身を置きます。
チャンスを求め、1990年にニューヨークに移住してもダメで、その年にロサンゼルスに帰って
くるのですが、そこでジェフにはひとつの考えが浮かびました。彼はレコード会社に自分を
直接売り込むため、父親の元マネージャーに連絡を取り、デモテープを作成したのです。
但しこれも脚光を浴びることはなく・・・。

燻っているジェフが、ある日突然シンデレラ・ボーイのように脚光を浴びる出来事が起こります。
80年代中旬に28歳でドラッグのオーヴァードーズで死去した父親・ティム・バックリィ
トリビュート・コンサートが91年に開かれ、そこに「ティムの息子」として招待されます。
ジェフの姿は若い頃のティムに瓜二つ、そして歌唱力は驚くべきもの・・・と話題騒然に。
そこから、クラブなどでライヴ活動を展開し、ライヴ盤を発売するなど礎をしっかり築いて、
94年「Grace」で本格デビューを見事叶えます。

母がジェフを身籠もっている頃に父と母は離婚、ジェフは父の顔を知らず母に育てられました。
ジェフが8歳の頃(ティム死去1年前)、突如父はジェフの前に現れました。
しかし、ジェフが父に会えることはそれきりありませんでした。
死因のせいか、ジェフは父の葬式にも出席していません。
そうして、早世したアーティストが死後に過剰な評価を受けて伝説化することを忌み嫌い、
折に触れあざ笑っていたといいます。それはまさに父(と後の自ら)のこと・・・。
でも、彼は父と同じシンガーソングライターの道を歩んだのです。
自分から選んだわけじゃない。こういう世界に属する人間なのだと気付いたんだ。
1カ所に留まることなく、音楽をプレイして、プレイして、歌って、歌って・・・・・・


運命や霊感によって適職に辿り着いたジェフ。そんな彼の、父親に対する本当の気持ちが
見えてくるような曲が#5「What Will You Say」。1stにも「素描」にも収録されていません。
これが、あまりにも気になる歌詞なので、一部を抜粋してみます。

うんと長い時が経ったね
あの頃のぼくはほんの子供だった
ぼくの顔を見た時
あなたはいったい何と言うんだろう

飛び去っていったように思える時間
日々は過ぎてただ消え去って行くだけ
ぼくの顔を見た時
あなたはいったい何と言うんだろう

おかしな話だけど
今の自分が大の男になったようには思えないんだ
ぼくの顔を見た時
あなたはいったい何と言うんだろう

愛しい母さん、この世は冷え切ってしまっている
愛のことを考えている者なんてもはや誰一人としていない
ぼくの顔を見た時
あなたはいったい何と言うんだろう

父さん、ぼくが何を言いたいのかわかる
ぼくのことがわかっているの
そもそもぼくのことを気にしてくれているの
ぼくの顔を見た時
あなたはいったい何と言うんだろう


ジェフの歌詞や、歌声のなかに、しばしば立ち現れる「孤独」「不全感」。
その正体がほんの少しだけ、一部だけ、垣間見えるような、痛烈な半自伝的歌詞です。
一説には、ジェフは双極性障害(躁鬱病)を患っており、川での死は事故でなく自殺だった
というものもあります。
「Grace」にしても「即興」にしても、所々に傷や不安感、そして諦念が表出しています。

それでも、どんなに孤独を抱えていても、胸の中をどれだけ不全感が苛んでも、
ステージにいない時はいつだって不安で壊れそうでも・・・
確かなものがステージにはありました。
毎夜毎夜の「かすかな光の煌めきを伴った過程」の積み重ね。全身全霊で「狭間を生きる」こと。
ジェフにあるのはただそれだけで、しかしそんな大それたものがあったのです。
そして「過程」がゴールなら、ゴールは毎日訪れたのです。そして、スタートも。
ジェフの人生は自分の力でコントロールできない「運命」に翻弄されたものでしたが、
彼はステージ上で、3オクターブ半の美声を自在にコントロールすることができたのです。
それに、弱さや脆さを繕わずありのままさらすことで、却ってその心の真の強さや誠実さを
観客に、あるいは天の神々に、もしかしたら天で聴いている父親に、証明してきました。


ジェフがいつでも伝えたかった「過程」「狭間」「今」。それは例えば、代表曲「Hallelujah」と
英のバンド・スミスの楽曲「アイ・ノウ・イッツ・オーバー」を繋ぎ合わせてメドレーにし、
「ああ、母さん、ぼくの頭に汚物がふりかかる」という衝撃的なフレーズや世界観と
「Hallelujah」に共通する諦念を浮かび上がらせ、えぐり出すといった試みにも表れています。

日本盤では、Disc2として、来日中に東京のスタジオでラジオ番組用にレコーディングされた
3曲のアコースティック・パフォーマンスが収録されていて、しかも5,6曲録った中から
ジェフ自身が選んだ、本人のお墨付きの秘蔵トラックなのだそうです。
ジェフの完璧主義とサービス精神がうかがえるエピソード、繊細な演奏揃いです。


オリジナル・アルバムをより生々しく伝えるとっておきの演奏、そしてここでしか聴けない
魅力的なアルバム未収録曲集。
「Grace」に匹敵する必携盤。ジェフ・バックリィの真髄がここにはあります。


次回は最終回、ジェフの「未完の2ndアルバム、そして謎に包まれたスケッチ集」。
「もし2ndが発売されていたとしてジェフに未来はどれだけあったか?」についても
ちょっぴり検証しちゃいます。


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コメント

すごい方だったんですね

燃える朝やけさん、こんにちは。
今回のブログ、とても深く心に入ってきました。
煌めきとは、孤独感と背中合わせなのかもしれませんね。
今でもジェフさんの音楽や存在そのものが、
私たちに痛烈な輝きを放ち続けているのかなと思いました。

深い孤独と悲しみが時に歌を絶対的に輝かせる

かげとらさん、こんばんは。
お褒めの言葉ありがとうございます!
今回書いたのがジェフの「影」の部分にあたりますかね。
でもこの人は読めなくて、いま最終回の「幻の新譜」の聞き取りをしてるんですが
ここにきて、まだまだ出してない手札をどんどん出してきてるんですよ。
あまり取り沙汰されていないけれど、こういった多面体であるところも
特徴かも。とはいえ、一番の聴きどころはやっぱり、前回と今回で書いたような
はっきりした「光と影」ですね、世界的に聴き継がれているのもきっとそこでしょう。

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