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辻井伸行:神様のカルテ~辻井伸行 作品集「滑らかで、優しくて、川のせせらぎのような風景の数々・・・『盲目』から『本物』への脱皮の証明」

何ものにも染まらない、無垢できよらかな、
川のせせらぎのように流れるやさしいピアノ。
初めて聴いたクラシックのCD、辻井伸行君の自作集は
クラシックにあまり馴染みのない私の耳にも、滑らかに響き渡ってきました。
神様のカルテ ~辻井伸行 自作集」。

神様のカルテ ~辻井伸行 自作集神様のカルテ ~辻井伸行 自作集
(2011/07/27)
辻井伸行

商品詳細を見る

嵐の櫻井翔くんと宮崎あおいちゃんが共演した映画「神様のカルテ」にテーマ曲や挿入曲、
エンディング曲を提供したことが軸となっていますが、
その他の多数の番組、CMのタイアップ曲~テーマ曲も収められ、
さしずめ辻井君のオリジナル曲のベスト・アルバムの趣も持つ本作。
ジャケットには「WORKS 2000-2011」の文字。文字通り、辻井君が11年間に及んで
作ってきた曲の数々が詰まっています。

「滑らかで、優しくて、川のせせらぎのよう」という感想を全体的に持ったのは
本作に収められている曲が少なくない割合で、自然を舞台につくられているから。
「神様のカルテ」の舞台となった信州をはじめ、スペインのマヨルカ島、
イタリアの小さな町コルトナ、ヴェネチア、冬の富良野、パリのセーヌ川、高尾山、
自宅にほど近い川沿い。
皆さんもよくご存じのとおり彼は生まれつきの全盲のはずですが、まるで景色が
はっきりと事細かく見えているかのように、聴いていると情景が浮かび上がってきます。

演奏能力はいうまでもなく、見えないはずのものを「見て」、その景色を鮮明に描き出す
という特殊な才能も、特筆すべきものではないでしょうか。
#6「風がはこんできたもの」は脚本家の倉本聰さんが4夜連続で4アーティストと対談した
TBSの同名の特別番組の第3夜に出演した時に作曲したものですが、
そこでは、倉本氏に案内され、冬の富良野独特の自然現象を観察したり、
倉本氏の劇団の公演を鑑賞したりして、それらの体験から得た心象風景をもとに
作曲を行う辻井君の姿が映し出されていました。
瑞々しく自然の不思議に「見入る」辻井君、活き活きした演劇を楽しむ辻井君。
我々とは全く違った所から、景色や風景といったものを感じ取り、見つめ、描き出す。
それはなんとも神秘的な光景でした。


#1「神様のカルテ」(同名映画テーマ曲)をはじめとする、美しく流れ出すように
自然の風景をスケッチしていく爽やかなタッチの曲が大半を占めますが、
なかには変わり種もあり、そこに思わず注意が向きます。

例えば、#4「ショパンへのオマージュ」は哀しげな曲。
辻井君が深く尊敬している作曲家、ショパン。
辻井君の2ndアルバムは「マイ・フェイバリット・ショパン」だったり、
ショパンの生家を訪ねたり、彼が苦しい時期に滞在した元修道院を訪ねたりと
深い敬愛が窺えます。
「ショパンへのオマージュ」では、その、苦しい時期に滞在した元修道院の部屋で
ショパンの弾いていたピアノに触れたら、感極まって涙が止まらなくなり、
「ショパンの魂と出逢って対話したような不思議な体験」と述べる体験をもとに
制作されたもの。ショパンの苦しみと共に慟哭しているような楽曲です。

#6「音の絵」は、ビートたけしさんが「今、一番会いたいアーティスト」に迫る
NHKBSプレミアムの番組「たけしアート☆ビート」に辻井君が出演した時、
たけしさんと辻井君が一緒にピアノで色々なことにチャレンジし、その際に
たけしさんのイメージを即興的に演奏した曲です。
番組収録の日、辻井君をイメージした絵をたけしさんがプレゼントしてくれた
お礼の気持ちをこめて「音の絵」というタイトルをつけ、たけしさんに捧げられています。
ちょっと厳粛で、ほの暗い感触。たけし映画のイメージでしょうか?
「将来、たけしさんの映画に音楽で参加できたら嬉しい」とまで語っているあたり。

#8「それでも、生きてゆく」はふたつの方向へ向けられています。
ひとつは2011年3月11日の東日本大震災で亡くなった人への追悼と、被災した人の
心の支えになりたいという願い。
そしてもうひとつは、フジテレビの同名のドラマ。4月のアメリカ・ツアー中に出来たこの曲は
全米各地で演奏されていましたが、同時期に、悲劇を乗り越え希望を見出す家族の物語である
このドラマの音楽の依頼を受け、ドラマのテーマと内容に、曲との共通性を強く感じ、
テーマ曲として提供することを決めたとのこと。
悲しげで重たい曲。「悲しみから立ち上がろうとする人に寄り添い支えるような曲」を
書いたという辻井君、その思い、狙いがよく伝わってきます。


見慣れた場所、知らない場所、自然の景観、人との出逢い、尊敬するアーティスト、
世界で起こった出来事。
お母さんの「実況」や自らの感覚を通して、自分の周りのあらゆる事物から
インスパイアを受けて、事物を「見て」、繊細な感性で次々と曲に仕上げていく。
そんな端正で丁寧な仕事=WORKSが15曲。
優しくて透明感に満ちたピアノは辻井君の人柄そのままのように感じられました。
TVなどで見聞きするあの姿やあの言葉そのものだと。
ピアノの音色は、鏡写しのように、弾く人の人柄まで反映するのでしょうか。
オリジナル楽曲ということも後押しして、なおさらそんなふうに思えてしまいます。


辻井君のショパンへの憧憬が詰まった2ndアルバムと、

マイ・フェイヴァリット・ショパンマイ・フェイヴァリット・ショパン
(2010/03/24)
辻井伸行

商品詳細を見る

エマーソン、レイク&パーマーを思い出す「展覧会の絵」を含む3rdアルバム。

展覧会の絵展覧会の絵
(2010/09/15)
辻井伸行

商品詳細を見る

どちらも興味津々です。本作にない新しい顔を垣間見ることができるはず。
どんな解釈をしているんだろう?


話題性と知名度、そして「友人のオススメで、貸してくれたから」という安易な理由で
ちょっと聴いてみた辻井君の自作集。
私にとって初めてのクラシック音楽CD体験。友人にとっても初めてだったそうです。
しかも、友人が本作をいつも聴いていたところ、友人のお母さんがファンになって
すっかりハマってしまい、ライヴのチケットを友人の分まで取ろうとしたとか。
(凄まじい倍率で、結局取れなかったそうですが)
そして私も何度もこのCDをリピートしています。
「辻井伸行」というブランド、ネームバリューだけではここまでの「奇蹟の連鎖」は
起こせないはず。
唯一無二の魅力、普遍性がある証拠です。

音楽をする上で目が見えるとか見えないとかはあまり関係ないと思うんです。僕も『盲目の天才ピアニスト』と呼ばれるよりは、ひとりでも多くの人に演奏を聴いてもらえる、"本物"のピアニストでありたいと思うだけです。


とは本作の解説ブックレットに掲載されている辻井君の言葉。
その志、しかと耳で目で受け取りました。
「盲目」という看板はもはや意味を成さず、今や、彼は正真正銘の本物のピアニストとして、
日本を、世界を駆けめぐっている真っ最中。
これからも純真なまま、どこまでもまっすぐに進んでいって欲しいと願うばかりです。
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