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小説の映画化:その1 絲山秋子『ばかもの』「素晴らしい物語と素晴らしい役者、演出との化学反応。絶望の果てで力強く煌めく希望」

今秋、幕を開ける「相棒 Season11」から、新・相棒役を務めることが決まった
成宮寛貴くんと、気づけばすっかり円熟した女優さんになった内田有紀さんの
W主演と二人の熱演で話題になった、映画「ばかもの」。

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既にDVD化され準新作扱いになっているので、観た人は多いと思いますが
この作品には同名の原作があるんです。

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私は本作の原作者で芥川賞作家の絲山秋子さんのファンなので、
どうしても原作を読んでからこの映画を観ることにしないと気が済まず、
結果、映画を観るのがちょっと遅れてしまい、ようやっといま感想を書けるわけです。

あらすじとしては、主人公の大学生「ヒデ」が年上で勝ち気な女性「額子」と出会って
激しく愛し合うも、2年後に額子が別の男性との結婚を理由に突然ヒデに別れを告げ、
ヒデは何とか大学を卒業し就職するも、重度のアルコール依存症に陥り、破滅へ。
リハビリ施設を出て、ひょんなことから額子と再会すると、額子は事故で左腕を失い
そのことをきっかけに離婚して、山中の静かな村でささやかな一人暮らしを営んでいた。
壊れた男と失った女は戦慄の再会を果たし、そしてやがてもう一度愛を育み、
ふたりなりのやり方で今度は永遠の未来に向かって歩き出す・・・といったものです。
(ネタバレですが、文庫本の裏表紙にこのくらいのことは書いてあるので)

映画はかなり小説に忠実なストーリーで、あまり大きな違いはありませんが、
やはり「小説にしかできないこと」「映画にしかできないこと」があるわけで
小説の良い所を最大限活かしながら、映画ならではの魅力的な演出が加わって
感動的かつ感情移入しやすい名作
になっています。
小説と映画の相違点や名シーンをピックアップして、双方の魅力を見つめてみましょう。


<相違点>

映画は、ヒデ(と額子)の、1999年から2009年にかけた「10年の物語」だが
小説は特にそういった括りはない。もう少し長い

映画公式サイトによると、金子修介監督は成宮くんに「男の10年の演じ分けを5段階にしたい」と
説明したのだそう。映画を観ると、無垢な少年から自立した大人へ、見事な演じ分けを堪能できる。
映画より小説のほうが時間の経過が長いと分かるのは、最後の、ヒデと同級生のネユキの年齢が
登場する場面(後述)より。

冒頭は、額子が「やりゃーいーんだろー、やりゃー」と服を脱ぎはじめる(小説)、
小説にもヒデのモノローグで登場する、額子との不意の出逢いとデートと・・・(映画)

小説では「餃子」「オオスカシバ」などのキーフレーズが章を支配する文学的な流れ。
映画は出来事が順序通りに進んでゆく、わかりやすさ重視の流れ。
因みに、額子とヒデが映画を観るシーンでは、小説ではゴダールなのに対し、映画では
ポルノ映画で、どちらも違う意味でヒデが面食らう。

小説のみに登場する『想像上の人物』
これを映画化したら、CGになるの?と危惧していた場面だが、映画では登場しなかった。
実在しない、ヒデの妄想のような女性で、額子に性的悪戯をされてフられた哀れなヒデを
救い出したり、年月を経て額子と対峙するときに額子に重なって映る、小説での重要人物。
絲山作品に時々登場する幻想的なモチーフの典型(他には「海の仙人」の「神様」など)
だけど、ちょっと抽象的なエピソードだしややこしくなるので、映画には不要か。

ネユキこと山根ゆきは引きこもりではなく「元引きこもり」で普通にクラスメート
小説では大学に全然来なくて、自身を「眠り病」と呼んでいるネユキだが、
映画では普通にヒデの隣によく座っており、友人の加藤にひやかされている。
因みに、加藤のガールフレンド(後の妻)は、小説では合コンで出会った短大生だが、
映画では大学の同級生で、ヒデやネユキと一緒に4人で座っていたりする。

ネユキのイエス愛聴や作品を貫徹する「ラウンドアバウト」のモチーフはなくなり、代わりに
モー娘。、ポルノグラフィティ、島谷ひとみ、オバマ大統領など、時々の時事ネタが登場

残念だったが映画を観る層を考えれば仕方ない。現代の女子大生が「イエスしか聴かない」のは
小説でも少し無理を感じなくもなかった、イエス好きとしては嬉しいことこの上ない設定だったが。
ラウンドアバウト」の歌詞に出てくる「僕は迂回するだろう、僕は君を忘れないだろう」は
小説で大事なモチーフとして何度か出てくるので「いいのかな?」と思ったけれど
やはりこれも小説だからこそ活きる。映画にあると多分蛇足だっただろう。
絲山作品ではこのような古めの音楽ネタ(クリムゾンだったり、ストーンズだったり)が
よくモチーフとなり、そこも好きな理由なのだが、ちょっとマニアックすぎるのか。
時事ネタは、少し重たい物語が繰り広げられる映画を、キャッチーにしてくれたと感じた。
時間の経過(ヒデの10年の物語)も分かりやすくなるし。
なかでも、ヒデが働く家電量販店で、TVにテツandトモのビデオが流れていて笑った。

映画では、所々でヒデによるなんちゃって俳句が詠まれる
小説には当然ないエピソード。ちゃらけた雰囲気にしたかったのだろうが、蛇足のような。

翔子は小説では加藤の婚約者の「友人」で、映画では「高校の先輩」
「翔子」とあるとどうしてもしょこたんを思い浮かべてしまって小説では困った(笑)。
もちろん、その手の女性ではなく、慎ましいタイプ(小説も映画もこの像は同じ)。
ヒデが額子と別れた後、結婚を前提に2年ほど付き合った女性。ヒデのアル中が原因で破局。
小説では翔子が両親の元へヒデを紹介しに行っている(が、断られている)が、映画では
このシーンがなく、逆に翔子の机上に「ゼクシィ」系の雑誌が置いてあってヒデが困惑する。
小説ではその間にヒデにモテキが到来する(ヒデの方がその気になれず、長続きしない)が
映画ではそういった描写はなく、額子の次の彼女が翔子だと思われる。

「少し前に閉鎖された高崎競馬場」の変わり果てた街並みに「よそ者だ!」と憤る
幻想のようなシーンがない

ヒデの疎外感を象徴する、小説にあるエピソード。しかし気がつくと元の街並みに
戻っていて、映画と同じように酒を買ってベンチに横たわって酔っぱらって寝ている。
高崎競馬場の名残のある街並みは新興住宅街に取って代わられていて、人間くさい匂いがなく
「悩みのある人間はここにはいない。ここに不幸はない。ここに死はない」と
田舎にあった人間らしさの喪失と都会の無機質さをえぐり出した、ヒデの激しいモノローグ。
但し、映画はヒデと額子のラブストーリーがメインなので、このテーマまで盛り込むと
さすがにあっぷあっぷか。

小説で小出しになっていたエピソード「姉の結婚式で泥酔して、式を台無しにする」が
映画では大きめの出来事として取りあげられ、これが原因で父はヒデを勘当する

小説では、語り手のヒデが男性主人公ということもあって、家族関係は常に貶しがちで、
照れ隠しのように綴られる(但し、両親の大切さを良く分かってもいる)が、
映画ではどっしりとした演技のできる俳優さんを父母姉に起用して、家族関係、家族の絆を
密に描いている。後述するように、家族関係の映画オリジナルエピソードもある。
勘当自体は小説でもあるが、特定の事件がきっかけというより、日頃のアル中が原因と
推測される。

ネユキは宗教団体の幹部で捕まる側(小説)なのが、映画だと殺される側
ヒデが額子と再会して、通い愛生活を送っている、終盤に近いタイミングのエピソード。
この転換は結構大きいと思ったが、映画でネユキを演じている女優(中村ゆりさん)の
儚いイメージに近づけたのかもしれない。
ネユキの年齢が登場するのはこのシーン。事件がTVで報道されている。

ヒデは、リハビリ施設退院後に務めていたアルバイト先のラーメン屋の職を失うが、
小説では店の倒産が原因で解雇されるのが、映画では自ら退職する

この後、ヒデは額子と暮らすことを小説でも映画でも決意するのだが、
映画の設定(自発的な退職)の方が、ヒデの意志がより強く感じられる。
小説の設定は自然な展開ではあるが、失職しなかったら「額子と暮らす」という選択を
なかなかしないようにも思える。ヒデは仕事にやり甲斐を感じて働いていたので。

映画のみに登場する、ヒデが家族に直談判して額子との交際の許しを乞うシーン
父母姉は「もうあんな思いはしたくない」「あの女は悪魔」とまで言う。
つまり映画では、ヒデがアルコール依存症に陥った原因は額子との破局だと断定している、
少なくともヒデの家族は。しかし小説では再会後のヒデと額子の恋愛についてとりたてて
干渉する場面はなく、アルコール依存症に陥った原因は、額子とのこともあるけれど、
「行き場のない思い」に起因し、その「行き場のない思い」は現在でも消えないとヒデが
モノローグで述べている。小説は、ラブストーリーだけでなく、行き場のない若者世代、
喪失や絶望を経て社会のレールを外れた人間たちの、疎外感や不安、そして可能性の模索が、
裏テーマとしてあるように思う。


<出色のシーン、エピソード>

童貞の19歳から自立の29歳までの、ヒデの顕著な成長
前述したが、全部全然違うヒデがいる。見た目や口調まですっかり変わっている。
成宮くんの演技力にとにかく舌を巻く。

額子が可愛い
小説の額子は、口は悪いわ、ガサツだわで、はっきり言って可愛げがなかなか感じられない。
しかし内田さんが演じたことで、強気だけど可愛げもあり、ときに弱さもある女性として
とても魅力的な額子が誕生したように感じた。
数々のはすっぱな台詞をどうするのかとソワソワしていたが、全部ばっちり決まっていた。
再会したときの総白髪姿にはやはりはじめ驚かされたが、次第に自然に見えてきた。
小説にはないシーンだが、ヒデと口論になった末、額子が子どものように膝をかかえて
泣きじゃくってしまう場面がある。この落差も、思わず見入ってしまった。

美しい濡れ場
絲山作品を読んでいると、異性や性行為に抵抗や嫌悪感やトラウマでもあるのかと
感じてしまうほど、どうも性行為のシーンが汚いのが気に掛かる。悪い事でもしているような。
片想いやプラトニックな関係はあんなに美しいのに。
主役級の女性に、必要以上にガサツな言動(特に口調)が多いのも気になるのだが。
映画ではそこを克服している。美しく、思い切りエロティックだ。
小説に欠けているものを映画が補完しているので、小説だけ読んだ人も、是非、
この映画の方も観てほしいと思う。

家族の絆の強調
アルコールに溺れるヒデを横目に、お酒の瓶を片付けながら泣く母、
ヒデが交通事故を起こして事情聴取を受ける際、震える父、
額子とやり直したいとヒデから直談判を受けた時に泣きながら激怒する姉。
小説でもエピソードが軽く紹介されていたが、映画では家族の側の気持ちが、
映像になること、具体的な仕草になることで、はっきり現れており、
少しさめた印象のある小説と比べ、より多くの人の共感や感動を呼びそうな演出だ。

都会にはないもの・・・高崎、片品という桃源郷
原作者の絲山秋子さんは東京出身ながら、群馬県高崎市に引っ越したのだそうで、
本作の舞台が高崎なのはそれに起因する。
「景色がとても美しい」「山はどこからでも見えるし、山の向こうのことは考えなくても良い」
「人が気さくだがべたべたしていなくて、人間関係の距離感がちょうど良い」とは、絲山さんが
高崎について聞かれた時の回答。
片品については、「県の北東の端で、美しい場所。そこはある意味行き止まりであり、
行き止まりには楽園があるというニュアンスを込めた」とのこと。
更に「群馬の女性は喋りはきついが、情が厚く魅力的」なため、額子という
強烈なキャラクターを生み出すには群馬県が舞台であるのは必然だったそう。
小説でも、映画でも、高崎や片品の自然の美しさ、近すぎず遠すぎない人間関係、
都会すぎない環境、額子の母など情が厚い人間たちにたくさん出逢い、ふれることができる。
高崎が舞台だったから、ラストシーンが片品だったから、成立する作品。

壊れた男と失った女。絶望の果て、社会の片隅の男女の、可能性の物語
自分が読んだことがある絲山作品で、本作ほどハッピーエンドに着地した作品はなかったので
ラストには驚いてしまった。もちろん、嬉しい驚きだ。
拗ねた男や女が最初から最後まで拗ねたままという話が多かったこれまでの作品から
一歩抜け出したのだと感じた。
絲山さんと金子監督との間では「がんばって生きてみるのも悪くない、と心が強くなれる映画」
にしたいという方向性で最初から一致していたのだそう。
その想いはしっかり作品に結実しているように感じた。とりわけラストシーン。
小説でも、映画でも、台詞も映像も極上だ。


素晴らしい物語に素晴らしい役者さんや演出がかけ合わされ、化学反応が起きて
見応えある映画が出来た
ことが、原作ファンとして本当に嬉しいです。
漫画や小説の映画化にはガッカリさせられることが少なくないのに、「いい映画だった」と
満点に近い点数を付けられる作品に出逢えて良かったと思います。
そして、新企画「小説×映画」の記念すべき第一回を、このような傑作で始められたことは
もはや奇蹟に近いものを感じます。
いざ映画のDVDを観るまで、どっちに転ぶか、全くわからなかったから。



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燃える朝やけさん

こんばんわ。
燃える朝やけさんのブログを読むと、
いつもその映画が見たくなります♪

いつも良い映画を紹介して頂き、
ありがとうです!!!!

この映画もチェックします♪

ちなみに相棒ですが、
やっとシーズン1が終わりそうです。(笑)

たける

ノウハウはなかなか出来ないままですが

たけるさん、こんばんは!

取り扱い分野を少しずつ広げていますが、それぞれに適した見方描き方があるのも
実感する毎回です。
記事を書くことでしか解決できないものなので、コツコツ試行錯誤を続けながら
今後も映画記事等々、様々に書いていきますので、よろしくお願いします。

「相棒」は、なにせ長いですから(笑)
ゆーっくりで良いと思います。

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