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ZAZ:その2 モンマルトルからのラブレター「フランスの伝統的な音楽を踏襲しながら、変幻自在に現在を歌う、はすっぱで自由なアーティスト」
チェック→レビューしてしまったZAZ(ザーズ)。
しかし先日、彼女の1stスタジオ・アルバム「ZAZ(モンマルトルからのラブレター)」を
やっとゲットしました!ので、早速レビューします。
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ライヴ盤レビューでは「スタジオ盤はまた違ったものなのだろう、そうしたら感想も
変わるかもしれない」と言及していましたが、その結果は、
多少の違いはあるけれど、高評価は変わらず。
「パンク・ロックのよう」と評したライヴ・パフォーマンスとはまた違った、
フランスの伝統的な音楽の伝道者としてのZAZの姿が浮き彫りになっていることを知りました。
まず、ライヴ盤とスタジオ盤(オリジナル)を聴いてみて、同じ点、異なる点。
<同じ点>
・歌のクオリティ。伊達にキャリアを積んでない。ライヴで劣化するということはない。
・華麗なスキャット、カズーのイミテーション、猫の鳴き真似、
コブシともヴィヴラートともつかない音程の上下などの、ユニークな楽器的アプローチ。
<異なる点>
・一部の曲(複数)でキー下げがされていた・・・ちょっと淋しい。
・ライヴはオリジナルより遙かにパンクだ!
・オリジナルには哀愁や、ストリート感がより強く出ており、「ピアフの後継者」と言われるのが
分かる気がする。
「ライヴ盤のほうがパンク」って、なかなか凄いわけですが、
「新人なのに、ライヴでも劣化ひとつしてない(キー下げを除く)」のもかなりのもの。
しかし、「パンクなZAZ」という認識から入る羽目になった者として、「おとなしい」はずの
オリジナル音源がつまらないのかというと、決してそんなことはなく。
しっとり、そしてポップに楽しめます。
そして、彼女の音楽の下敷きにフランスの伝統的な音楽、シャンソンやマヌーシュ・スウィング
などがあるのをはっきりと感じ取れるのです。
ライヴでは「シャンソンなどはZAZのいち要素」と感じたのですが、スタジオ盤では
シャンソンなどのフランスに長らく伝わる音楽を、今風にアップデートしたような印象。
シャンソン、マヌーシュ(ジプシー)・スウィングについてはアルバム日本盤の解説が
詳しいのですが、噛み砕いて言うと「ZAZの歌のジャンルはシャンソンで、伴奏の形態、
とりわけギターの奏法はマヌーシュ・スウィングのそれである」そうで。
シャンソンは中世フランスの「吟遊詩人」が原型とされ、マヌーシュ・スウィングの
前身であるダンス音楽「ミュゼット」は19世紀に移民たちの流入によって生まれ。
つまりZAZの音楽はフランスの歴史を背負ったような古典的な音楽が土台にあるわけで、
日本に置き換えると、現代的に味付けをした演歌や民謡が世界的ヒットをしているようなもの。
由紀さおりさんの米でのスマッシュヒットや、元ちとせさんのミリオンセラーなどに
例えられるのでしょうか。
どちらも上手い例えではないのですが。
こう書くと、ちょっと難しそうな印象を抱くはず。
でも聴いてみるととてもキャッチーです。
ポップスやソウルの要素も入っているし、身体を揺らして一緒に口ずさめそうなノリ
(フランス語の特有の発音は難しいけれど!)もある。
ZAZのキャッチコピーとして「21世紀のエディット・ピアフ」というものがありますが
ピアフが立派に壮大に、ある種尊大に歌い上げるのに対し、ZAZはもっと身近な感じ。
(因みに#10「私の街で」はピアフのカバー。邦題「モンマルトル」のくだりもこの曲からか)
やんちゃで、ちょっとはすっぱ。でも色気は足りないかも?(笑)そして時に繊細。
あまり難しく考えずに、とりあえず耳にしてみれば、なんだか楽しくなれる音楽です。
ZAZ(作詞曲名は本名「Isabelle Geffroy」)はおよそ半数の曲で作詞や作曲を手がけています。
残りは、プロデューサーのケレディン・ソルタニや、他のミュージシャンによるもの。
歌詞を見ていくと、また色々な彼女の姿が見えて興味深いです。
(特に表記がない場合はZAZによる作詞)
<観察する眼差し>#1「通行人」
人々が通り過ぎて行く
彼らを見ながら
考えごとをして時を過ごす私
足早に歩いている彼らの
傷ついた体から
その過ぎ去った日々が見えてくる
暢気な足取りなのに
<はすっぱ>#2「私の欲しいもの」(作詞:ソルタニ)
うんざりよ あなたの社交界のマナー 我慢できないわ!
私なんて 手づかみで食べてるような女よ!
大声で話すし 正直な女なのよ ごめんなさいね!
偽善をやめて 私はここからずらかるわ!
うんざりよ 紋切り型の表現なんて!
私を見て とにかく あなたを恨んじゃいないわよ 私ってこんなよ!
<愛の皮肉>#3「人生の旅路」
手をつなごうよ
人生の旅路で
私たちの運命を選ぼうよ
もう何も疑わないで
私は信じるわ 耳を傾けること
問題は それよ
私たちの小さな手を思いっきり広げよう
何がなんでも
(中略)
バカよ 自分自身を隠して
バカになれる人なんて
バカよ バカになれる人なんて
相手の姿は
隠してる自分の鏡にほかならないんだから
<繊細さと精神>#5「過敏なあなた」
幽霊であふれているこの世の中で
あなたは足掛けを食わされるだろう
あなたのなかにこの光を探すのよ
天使の心を持っていれば
人間性は
外見よりも美しい
無知さに騙されないように
彼らの嘘を信じないように
彼らは自分たちができることを
彼らが持っているものをあなたに与える
人があなたにたたき込んだこと以上に あなたのなかに存在しなさい
<愛と社会>#9「また好きになっちゃった」
好きよ また好きになっちゃった ×2
その日ごとに 驚きがある ×2
好きよ また好きになっちゃった ×2
だからといって 甘えちゃダメよ ×2
好きよ また好きになっちゃった ×2
(中略)
分りきったことね この歌が軽い歌じゃないって
地上で諦めてるなんてあんまりなこと
(中略)
世の中の問題
世界の遊び
世界が抱える問題 私の日々は驚きよ
世界が抱える問題
世の中の遊び
世の中の問題点 だからといって甘えちゃダメよ
世の中の問題点
シャンソンは「愛、精神、社会的なテーマ等を歌い込んだ、詞を重視しながら表現した歌」
という本質を持つそうで、ZAZの歌には正にそれらが歌い込まれていますね。
それにしても#2は強烈。あえてプロデューサーが第三者の立場からZAZを観察して書いたのか、
あるいはこのように色づけしたくて恣意的に書いたのか。
少なくとも、ライヴで展開されていた姿(ミニ・ドキュメント部分含め)を見るかぎり、
いかにも彼女が言いそう・しそうな言動ではありますが・・・(笑)
歌詞全体を見ると、皮肉がたっぷり効いていて、サビでは「私が欲しいのは 愛 歓び いい気分
私を幸せにしてくれる」と歌われるなど、ピアフを彷彿とさせる愛の世界もちらついています。
いまを生きるシャンソン、オールドなものに他ジャンルを掛け合わせた新種の音楽。
どちらとも形容できますが、全体を貫徹するのは、不思議な清涼感、柔軟な発想、
しなやかで強い意志。
国籍を問わず老若男女が楽しめるに違いない作品、日本でももっと知られてほしいものです。
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ZAZ:SANS TSU TSOU「エディット・ピアフの後継者と思いきや、その本質はパンクロッカー?!導火線に火をつける"アン・ドゥ・トロワ!!!"」
フランスの歌姫、ZAZ(ザーズ)のライヴCD&DVDのセット
「SANS TSU TSOU(ライブ!~聞かせてよ、愛の歌を~)」を
聴いて&観てみました!
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彼女のことを知ったきっかけは、殆ど奇蹟のようなものでした。
藤井フミヤさんと元ちとせさんがやっていた5分番組「Amazing Voice」
(地上波ver。本来の放送はBSで、もっと長い時間かけてやっていたらしい)を
地道に、かつなんとな~く毎回チェックしていたんですが、
そこに彼女が登場。一気に心惹かれてしまったんです。
出逢いは本当に、どこに転がっているかわからない。
以来何となく気になっていたところで、本作と1stアルバムを発見!
「これは!」と思って、今回のライヴCD&DVDを入手してきました。
諸事情により、1stが入手できなかったのですが、スタジオ録音を聴くとまた別の感想が
彼女とその音楽に対して湧いてくるかと思います。1stを入手した暁には、改めて書きます。
世界的にヒットしている音楽の殆どが英米産である中、日本公演までしてしまったという
フランス人歌手としては異例の大成功を遂げたZAZ。
ライヴツアーで世界中を回る日々で、なかなか新譜を作れないそうなんですが
本作に何曲か新曲も入っているので、1stを聴いた人も新たな楽しみがあるはず。
彼女、散々ピアフピアフ言われていますが、実はその要素は確かに重要ではあっても
あくまでいち要素に過ぎないことが、このライヴを観る(聴く)とわかると思います。
小さな頃から多くの音楽に触れて育ち、音楽理論まで学び、音楽学校を卒業というエリート。
ピアフの悲惨で無頼な境遇とはずいぶんかけ離れています。
しかしそこからデビューまでが時間がかかり、案外そう若くない(80年生まれ)苦労人。
不遇時代に路上で歌っていたことと、そのハスキーボイスから、ピアフに擬えられるように。
影響を受けた音楽は、ジャズやクラシック、そしてもちろんピアフのようなシャンソン、
更にはアフロ系とラテン系の音楽など。路上時代はラップやポップスも歌っていたそうで、
しかも、自ら作詞作曲までこなすシンガーソングライターでもあって。
ZAZを一つのフレーズやイメージでまとめるのは、存外に難しそうです。
CDでも十分その凄みがわかり、素晴らしいライヴCDとして鑑賞できますが
ZAZのライヴパフォーマンスと、音源ではわからないもう一つの側面を垣間見るには
DVDでその姿を映像として観るのがうってつけです。
CDの内容はDVDとほぼ同じ(DVDに挿入されているドキュメンタリー的場面がない)で
一つのライヴの音源を聴いているのだと思わされますが、
DVDを観ると、主にふたつの会場でのライヴを基にしていることが判明します。
大ホールと、野外フェス。対極的な会場。
これらがちらちら移り変わるので、初めはなんとなく落ち着かないかも?
でも次第に慣れてきます。
ZAZの大まかな音楽カテゴリは、ジャズ~シャンソンのはずですが、ライヴを観ていると
パンク・ロックのヴォーカリストと見紛うハードなパフォーマンス
の連発で、自分が何のジャンルの音楽を聴いているのかわからなくなってしまいます。
もはや「ハードコア・ジャズ」とか「エモ・シャンソン」などと呼びたくなります。
ステージを所狭しと歩き回る、ぽんぽん飛び跳ねる、煽る、叫ぶ、吠える、
ドラムスティックを持ってドラムを叩きまくる(ドラマーは思いきり顔をかばっている)、
歌い疲れたと言わんばかりにステージ上に大の字になって寝そべる(ジャケ写のように)、
そして最終兵器は、「用意はいい?」などと煽ってから獣のように大絶叫する
「アン・ドゥ・トロワ(1,2,3)!!!」で、これをやると会場中も大絶叫に包まれます。
今回のライヴではメンバー紹介(スタッフなども呼んでいる)の最後に、感謝を込めての
「アン・ドゥ・トロワ!!!」で、「トロワ」の瞬間に飛び跳ね、ドンッと着地する音まで
DVDでは聴こえます。(特典映像についている、ステージ横からのショットにて)
しかもよく見ると、ZAZ嬢、耳たぶと耳の上側、それに頬にピアスが!
このようなパンクスピリットを楽曲でも出そうとしてか、新曲の#16は完全にロック。
#13で炸裂する、声にならない所まで叫ぶシャウトは、ハードコア顔負けの壮絶なもの。
今度、新譜が出たら、ロックなZAZが楽しめるかもしれません。
スタジオ音源でも披露しているようですが、ライヴで顕著にみられるのが
右手を丸めてカズーの擬態をしたり、猫の擬態をしたりといった「イミテーション」。
そして、自由奔放な「スキャット」、コブシとヴィブラートを織り交ぜた複雑な歌唱。
これだけ楽器のようなアプローチを多く備えていれば、インプロヴィゼーションも何のその。
とにかく多様な要素を内包していることが窺えて、ユーモアにも溢れています。
CDで聴いていると「ミクスチャー・ジャズ」「ポスト・シャンソン」とでも形容したいほど。
日本人としてどうしても印象に強く残ったのは、何とあの「おリン」を鳴らすシーン(#12)。
メロディラインや歌唱法は中近東を匂わせ(日本版冊子の解説では「浄瑠璃のよう」とも)、
その幻想的なインプロから、一気にヒットシングル曲#12へとなだれ込みます。
CD版の最後では「アリガトー!」と言って幕を閉じていたりして、
日本文化から浅からぬ影響を受けているようです。
DVDだからこそわかる面白さとしては、バンドメンバーが「サポートメンバー」というより
ZAZ自身がバンドの一員、というほど、みんなが一丸となった演奏、パフォーマンスで
楽しませてくれることです。
#8で突然演奏が止まって、CDで聴いていると「何事か?」と感じると思うのですが
これは何と、全員がその時点で動きをピタッと静止しているのです!
そして、また激しく演奏が再開して、ZAZのぐったり大の字パフォーマンスを経て、
ゆっくり立ち上がると今度はしっとり歌い上げるという、最大の見所の一つ。
また、「アン・ドゥ・トロワ!!!」が爆発する#15で、大声の男の声が耳につくはずですが
これはアコーディオン担当のメンバーが珍妙な格好をして歌っているのです(笑)。
ギタリスト2人、ベーシスト、ドラマー、そして珍妙なアコーディオンさんに
「給料下げるわよ」とZAZが言ったかと思うと、みんな、いじけて引っ込んでしまい、
代わりにホーン隊の3人が出てきて演奏続行。
そして「もう、みんな機嫌なおしてよ!」とZAZが言うと、引っ込んだメンバー達が演奏を再開し
やることがなくなったホーン隊は、男同士でフォークダンスをウキウキと踊ってみたり。
また、ギタリストの一人に「ブノワ」という男性がいるんですが、ZAZは何かと彼をイジって
「あなたのファンクラブはあるの?(観客の歓声はごくわずか)今日はないみたいね」
「何してるの?どうしてそんなに遠くにいるの?」などと、散々遊ばれています。
ギターソロを弾いている時すらそーっと触られたりして、完全にオモチャです。
・・・と、このように、大人げないZAZちゃんオーバー30歳を優しく見守り、どっしり支える
メンバー達が、父親やお兄さんのようにZAZの歌とパフォーマンスをサポートします。
「どうしてこんなに奔放に振る舞い、力強く時に繊細に歌えるのだろう」
「声や感情やパフォーマンスが、泉のように湧き出て、涸れることを知らないのだろう」
よく天才的な歌い手が「歌を歌うために生まれてきた人」といった表現で称えられますが
ZAZを観ているとき、「歌を生きている人」「歌の世界の住人」そんな言葉が頭に浮かびながら
彼女の圧倒的な存在感に、ただただ打ちのめされていました。
普段ジャズ、ましてシャンソンなんて聴く機会もない、という人でも
楽しんで観て聴けること請け合いです。
とりわけ本国では、ZAZのファン層は老若男女問わず幅広く、堂々たる国民的スターだとか。
ジャズ・フリークだけの音楽ではなく、流行のポップスしか聴かない層だけの音楽にも
収まらない。つまりは普遍的な魅力と通が唸る底力とを備えているということ。
まぁ、可愛いとか綺麗といった形容詞もあてはまらないので、アイドル性を求める人には
向かないだろうけど・・・(おっと失礼)
「格好良い」「ロック」「パンク」「ファンキー」、プラス「ジャズ」「シャンソン」。
こういった形容詞にピンときた人には絶対オススメです。
今まで経験してきたジャンルの垣根を越えて、手を伸ばしてみてはいかがでしょうか?
幅広い要素をごった煮にした、快活ながらも奥が深いZAZの世界に・・・。
1st「Zaz(モンマルトルからのラブレター)」は、もう少し正統派の様子。
本国フランスでミリオンセラーを記録した名作、それはそれでやはり気になります。
参考「音」献。
20世紀のエディット・ピアフもこの機会にチェックしてみました。
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言葉は不要、その声だけでプライスレス。
ドキュメンタリー映画も沢山ありますが、そっちもまた色々観てみたくなりました。
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