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Jonny Greenwood:Norwegian Wood Original Soundtrack + 映画『ノルウェイの森』感想(当時の鑑賞レポ)
映画「ノルウェイの森」のチケットがまさかの当選!
元々観る予定だった映画をまさかタダで観られるとは、これはラッキーすぎる。
なにせあの「ノルウェイの森」で、それを松ケンこと松山ケンイチや菊地凜子が演じて、
さらに音楽はRadiohead(レディオヘッド)の奇才ギタリスト、
Jonny Greenwood(ジョニー・グリーンウッド)なのだから、観ないはずがない・・・!
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自分の席の後ろで、いわゆる「スイーツ」か「JK」の女の子たちがペチャクチャ喋ってて
「あー早く始まらないかな」とイライラしながら予告編などを観ていましたっけ。
どうも村上春樹さんの原作の小説を知らないらしく・・・(多分松ケン目当て)
「じゃあ何で来てんだよ!ああうぜえ」と苛立ちMAXになった所で映画が幕を開けました。
そして終わってみれば・・・何かもうお先真っ暗闇の気分。
後ろのスイーツだかJKだかもすっごく微妙なリアクション。
館内の雰囲気が完全に淀みきっていました。
この話ってこんなに救いのない、根暗でセックス連呼の鬱小説だったっけ??
生々しい性描写に皆が息を潜め、退廃的な青春に皆が鬱になり、
直子の最期の変色した足元がグロテスクで怖く、
海に来て号泣する薄汚れた松ケンに皆が驚き・・・
(しかし、今年の大河ドラマ「平清盛」の序盤は、その汚れ具合が通常営業でした。
だから叩かれてたのか)
音楽も何だか薄気味悪くって・・・そしてやっぱり、
松ケンと菊地凜子に小説の台詞をまるまる棒読みさせて、
それを「原作の世界観を尊重した」なんて言わないでくれないか
という怒りがふつふつと湧いてきて。
二人ともファンだったので余計に憤りは深く・・・
この映画のせいか否か、気づけば二人して何となく人気下り坂モード・・・
逆に水原希子さんが株を上げた作品になっていたとは思いましたが。
監督のトラン・アン・ユン氏は制作の際、村上春樹さんの他の作品には一切目を通さず、
「ノルウェイの森」だけに集中したとのことで、それが凶と出たのは明らか。
春樹作品は「あの空気」、何となく漂っているぼやっとした空気があるから、鬱なストーリーでも
何だかロマンティックに読めてしまうわけで、その空気を取ってしまったら・・・
「道理で、とんちんかんな映画になるわけだ」妙に合点がいったのでした。
但し以前に漱石の小説を漫画化した「こころ」の記事で書いたように、小説を漫画や映画のような
パッと映像が見えるメディアにそのまま落とし込むと、どうしても大仰で考えすぎな作品に
なってしまいがち。ましてこの映画は小説特有の言い回しをそのまま盛り込んでしまうのだから。
凄く期待して観に行っただけに、鑑賞後のがっかり度といったら無かったです。
でも劇中に流れてきた未知の洋楽には凄く惹きつけられました。
調べてみると「CAN(カン)」という60~70年代のバンドらしい。
(「クラウト・ロック」と言われたり「ジャーマン・プログレ」と言われたりしている)
こんなマニアックな音楽を読書オタクのワタナベがわざわざ聴くか??と強い違和感や疑問を
抱いたのですが(ビートルズ、ストーンズ、あとはせいぜい劇中で流れていたドアーズ位が
限界では。そもそも邦画に近い映画で邦楽が流れない時点で半端ない違和感を覚えたのですが)
それでもゾクッとするようなあの乾いた空気感が忘れられない。
そう思ってとりあえずダモ鈴木在籍時のCANの作品を2つ3つ聴いてみたりしました。
そして結局ある程度ファンになり、「さて、ダモ脱退前後は何を聴けば」と言っているところで
初期作品の道標になることを期待して、こちらを聴いてみたというわけです。
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同じ写真を2度載せているようなかたちになってしまった、しかししかたがない(笑)
映画で流れていたとき「何だか薄気味悪い」と感じた音楽たちは、音源として聴いてみると
案外そんなに悪くなくて。何だかんだでタイミングを逃しつづけ、記事を書き損ねているうちに
結果として何十遍とリピートしたのですが、気がつけばすっかり生活の一部に!?
夜、こうしてblogなんか書いたり寝る支度なんかしながら聴くととても雰囲気がありますね。
ジョニー・グリーンウッドがよく「ギタリストらしくないギタリスト」「ギターに拘りが
まるでない」と評されている(良くも悪くも)のは何となく知っていました。
ただ、レディオヘッドは「そこそこ好き」ではあっても「大ファン」ではないので
ジョニーがマルチ・プレイヤーで、クラシックや現代音楽にも造詣が深く
オーケストラのスコアまで定期的に作曲してしまうとんでもないお人だというのは
本作の解説を読むまで殆ど知りませんでした。
そんなことをレディオヘッドの活動と並行してやっているんだから、ただただ
たまげてしまうのみです。
本作に収められている曲は大きく分けて3種類あります。
①ジョニーがギター1本で奏でるアコースティック・ナンバーや、カルテット用のナンバー。
登場人物たちの日常生活の場面に登場。
②壮大なオーケストラ・ナンバー。
登場人物たちの心象風景を描く。例えば、先述したワタナベが海で泣くシーンなど。
③CANの初期作品からピックアップした曲
「Monster Movie」から「Mary,Mary,So Contrary」、
「Soundtracks」から「Don't Turn The Light On,Leave Me Alone」、
そして名作アルバム「Tago Mago」から「Bring Me Coffee Or Tea」。
オーケストラ・ナンバーは壮大かつ物憂げで、レディオヘッドの音楽を何となく想起させなくも
ないような、メランコリーの深淵へと呑みこまれてしまいそうな楽曲。
儚く切ないギターの調べには「ジョニーらしさ」を感じ、カルテット・ナンバーは優しげで。
初めはCANの楽曲しか聴き所がないなんて思っていたけれど、リピートするうちに
CAN曲以外の、ジョニー曲にも魅せられるようになっていきました。
しかしやはり、CAN曲のイントロが流れ出してきた途端に空気がガラッと変わるんですよね。
何か「格の違い」とでもいうような。しかも良い曲ばかり集めて。
ジョニーは(トム・ヨークなども)元々CANの大ファンだとか。
「ノルウェイの森」の音楽について、監督から「思春期に寄り添う曲」をオーダーされたそうですが
そこで「これはCANを布教する絶好の機会」なんて思いつき、このような起用を図ったとしても
まぁ異論はないです。肝心のビートルズの「ノルウェイの森」を入れられなかったり
するくらいなんだし。理由は書くまでもないのですが(ビートルズにはいつものこと、と)。
それにしてもいい立場だよなあ(笑)
ところで私は日頃ほぼ全くクラシック音楽と接点をもつ機会のない人間なのですが、
本作を聴いていると自然と「クラシックもいいかもしれない」という気分になってきます。
何から聴けば分からないくらい接点がないし、子どもの頃に学んだりもしなかったのですが
「何か聴いてみようかな」と思うようになっています。
ジョニーがロック畑の人間だから親しみやすさを感じるのでしょうか。
いや寧ろ、レディオヘッド加入前のジョニーはクラシックに傾倒していたというので
「クラシック畑の人間がロックバンドに入って、バンドの音楽に多様性をもたらした」
と言った方が正しいのかも。つまりクラシックのほうがある意味「本元」だと。
ジョニーを通して、私自身がクラシックの魅力を教えられたのかもしれませんね。
CANのイントロダクションにもいいだろうし、クラシック音楽に触れるきっかけとしても
なかなか良い、多面体のアーティストの作品らしい多面体なアルバムだと思います。
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ジョニーのサントラ仕事は、「ボディ・ソング」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」に続いて
「ノルウェイの森」が3作目だったそうで。この「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」サントラが
評判を呼んで、最近ではこんなことまでも。
Penderecki & Greenwood: 48 Responses to (2012/03/19) Penderecki & Jonny Greenwood 商品詳細を見る |
ジャケ買いしたくなります。
スティーヴ・ライヒとジョニーが行った演奏会と連動して作られたというアルバム。
ライヒ氏曰く「ギターピックでヴァイオリンとヴィオラのピツィカートを弾くなんて、普通は
絶対思いつかない。才能のある人間は、ロックもクラシックも両方出来てしまうんだよ」と。
天はジョニーに二物を与えちゃったようです。
よく言われる「さかなクンに似ている」のは、みっつめの才能・・・なわけないか。