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デトロイト・メタル・シティ 最終巻+映画感想「やりたいことと向いていることの隔たり・・・面白おかしく彷徨いながら、根岸が辿り着いた答え」

2年越しで読み終えた、漫画「デトロイト・メタル・シティ」の最終巻!

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(2010/07/29)
若杉 公徳

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漫画はコミックス派なのですが、それにしても待ちすぎた理由は、映画化された辺りで
自分のなかのピークがちょっと過ぎちゃったというのがあったんですよね。
で、以前漫画を沢山レンタルした時に、巻数合わせ(10巻で○○円)で
「そろそろ決着を見よう」とやっと借りて。
いつも通りの展開の延長線ではあるけれど、なんだかしみじみきました。

ヒット作で、映画化もされているし、お馴染みかもわかりませんが、一応あらすじを。
主人公・根岸崇一はポップ・ミュージックを愛好し、その道でデビューを目指す純朴な青年。
しかし根岸の思いとは裏腹に自作自演の音楽や演奏はまったく日の目を見ない。
そしてあろうことか、根岸が忌み嫌うデス・メタルのインディーズバンドに加入する羽目になり、
デトロイト・メタル・シティ(DMC)」のボーカル・ギターの“ヨハネ・クラウザーII世”として
カリスマになってしまったからさぁ大変。レコード会社の社長は「そんなんじゃ濡れねーんだよ!」
とズバズバ暴力を振るうわ、大学時代からの想い人・相川さんはデスメタルが大嫌いなのに
何かとライヴの過激なパフォーマンスに巻き込んでしまうわ、バンドメンバーやライバルバンドも
色々個性的だわと、とにかくハチャメチャでくだらなくて笑えるバンド&青春漫画です。
但しこの記事を書くにあたって調べてみたところ、一部のメタルファンから反感をかって
しまっていたのだとか(従来からのヘヴィメタルへの誤解を更に助長させるような描写が
多く含まれているため)。自分はメタルにそんなに強い愛着もないし、なにせギャグマンガなので
細かいことは気にせずにゲラゲラ笑って読んでいたので、ちょっぴりショック。
けれど、自分に例えれば普段このblogに書いている人達が改悪デフォルメされて貶されている
ようなものですからね、確かにそれは微妙かも・・・

SATSUGAI「オレは地獄のテロリスト 昨日母さん犯したぜ 明日は父さんほってやる」
「サツガイせよ、サツガイせよ」「殺せ殺せ殺せ 親など殺せ」
「俺には父さん母さんいねえ、それは俺が殺したから」や
恨みはらさでおくべきか「貴様の罪は俺が罰する 俺は地獄からの使者 貴様の尻を八つ裂きじゃー」「恨みはらさでおくべきか、恨みはらさでおくべきか」等、恐るべき全ての曲の作詞作曲を
根岸が(個人的な様々なルサンチマンを原動力に)作っていたり、DMCではそのギターの腕は
超絶技巧と評され、ライバルバンドとのギターバトルでも全て勝っていたり(というか、
まともなスキル勝負は早弾き合戦で、あとは「1秒間にどちらが多く"レイプ"と発言するか」や、
ザ・フーやジミヘンも真っ青な破天荒なパフォーマンスによる破壊合戦が目立つ)と、
何だかんだで根岸のアーティストとしての能力(含むパフォーマンス)が評価される場かつ、
根岸の本音がよく出ているのが面白くて皮肉なところ。
「本当にやりたい音楽」では、クネクネしながら甘ったるいポップ・ソングを弾き語りするも
各方面からとことんけなされている上、その楽曲は根岸の内面から出てきたものというよりは
好きな音楽(オザケン、コーネリアスなど)みたいなオシャレな音楽を形だけなぞった感じ。
だけど、相川さんや後輩の佐治くんは「やりたい音楽」を絶賛してくれるし、
デスメタルなんて大嫌いだし、「あんな酷いこと(=パフォーマンス)」する自分も好きじゃない。
どうしよう?

「やりたいこと・好きなこと」と「向いていること・うまくいくこと」のすれ違い
大きなテーマになっている本作。そこからは、笑いだけでなく、等身大の青年・根岸の葛藤が
浮かび上がってきて、これもまた多くの人の共感を呼んだ要因です。
尊大で粗暴な「カリスマ」のクラウザーさんと、小心で童●な「普通の男」の根岸。
根岸はクラウザーさんを演じる自分に自己嫌悪を覚えて何度となくDMCを脱走、失踪しますが
(実家に帰って農業をやろうとしてみたり、いきなりパリに留学してしまったり、等々)
その一方で、日常でムカつく出来事が起こった時、クラウザーさん化することもしばしば。
逆に、クラウザーさんの姿のままで、根岸の優しい心から、思いやりを発揮する場面も。
クラウザーさんと根岸との間を行ったり来たりの迷い多き日々。
でもどちらも根岸そのもの以外の何者でもないんですよね。

最終巻では、根岸そっくりのメンタリティを持った青年率いるバンドが最強のライバルとして
立ちはだかり、しかもDMCがまさかの敗北を喫してしまうことに。
この挫折と、自身をある意味客観的に見た体験から、「あんな風になりたくない」
「自分から逃げるのはやめよう」と、クラウザーさんを封印してパリに留学する根岸。
しかしここでも根岸の音楽は全く通用せず、誰からも必要とされない疎外感を噛みしめる。
根岸なきDMCでは、社長が吐血して倒れるなど存続の危機。バンドメンバーの和田くんから
日本行き航空券とセットで顛末を手紙で受け取ると、本能的に帰国、最強のライバル・ゴッド
見事勝利、クラウザーさんとして観客の大歓声や一体感に大きな喜びを覚える。
遂に相川さんに自身の正体を打ち明ける(実は、相川さんとは両思いだったことが判明!)が
相川さんは信じてくれず、二人のその後や、弾き語りを続けているかは不明なまま、
今日も根岸は仲間と一緒にDMCでクラウザーさんとしてメタルし続ける・・・という結末。
コミックスでは本編に登場した全ての「レイプ」発言を、アルバイトをわざわざ雇って
カウントしてあったのに激しく爆笑。しかもバイトさん達はうら若き女性だったと(笑)

根岸は最終巻で、「やりたいことと向いていること」とのギャップに折り合いをつけられた
ように感じました。「クラウザーさん」というアイデンティティも自分自身だと認めたようにも。
大嫌いなはずのデスメタル・バンドで、何よりのやり甲斐を感じられたようにも。
クラウザーさんを自分自身の一部だと認めたことで、「本当の自分探し」のモラトリアムの旅も
終わったようにも。(ポップ・ソングの弾き語りを今でも続けているかどうかが判然としないが
それによっても随分変わる気もする。まぁ、両方並行してやっていてもおかしくはないが)

よくケータイ小説やその世代が「みんなの前でニコニコ笑ってるアタシは本当のアタシじゃない。
でも、○○君だけが、本当のアタシを受け入れてくれた」みたいなことを書いていますが
自分に嘘も本当もあるのでしょうか?様々な場面に適応するのも、それはそれで自分では?
人間は多面体。その時々の姿が「本当の自分」。例えそれが普段より割り増しした姿でも。
ポップな音楽が好きな根岸もクラウザーさんとして暴れている根岸も、全部そのまま自分自身。
矛盾するような趣向を複数抱えているなんてよくある話です。
その方が、音楽としても人としても奥行きが出て豊かになるのではないでしょうか。
ミュージシャンでも一面タイプと多面体タイプがいますが、自分は後者のほうに惹かれます。

そして「やりたいことと向いていること」という悩みはいまどきの若者にも当てはまるはず。
就活本などはやたらと「やりたいこと」「本当の自分」を探すように煽ってきますが、
実際に「やりたいこと」を仕事にできる人はごくわずか。運良く関連する会社に入っても、
思い通りの業種に就けていないと不満を抱いている人だって沢山いるでしょう。
その一方で、全然興味もなかった職場で評価されて、自分の知らなかった能力が伸びて、
やり甲斐を見出す人だって少なくないんじゃないでしょうか。
途中で「やりたいこと」を見つけたり、「向いていること」がわかったりするケースだって
本当に多いのだし。
「やりたいこと」「本当の自分」にこだわったままではいつまでも仕事に就けないし
定着できません。これだけの就職難にも関わらず離職率が高い背景には、こんな職業教育や
世相が絡んでいるはず。(当然、これらが全てではないですが)
「やりたいこと」を潰す必要はないのですが、「向いていること」の価値をもっと大人世代は
若い世代にアナウンスすべきです。「我慢」や「妥協」を強いる根性論としてではなくて。
・・・と、ここまで大仰に若者論を展開せずとも、歌手でデビューして俳優としてブレイクしたとか、
プロデューサーに転身してとか、本来のかたちでない成功をした人の例も沢山ありますよね。
たまたまでも、本意でなくとも、そうやって成功できるのはやっぱり幸せなことだと思います。
「向いていること」があって、それで人から必要とされて、感謝もされて、自分の気持ちも
嬉しくなるし、もっと頑張ろうと思える。最初は見向きもしなかったようなことで。

笑いながら1巻から最終巻まで根岸の葛藤とその結末を共にして、実社会でもよくある
「理想と現実」を受け止める幸せなかたちのひとつを垣間見たような気がしました。



ところでまさかの映画化も話題になりましたね。

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松山ケンイチ、加藤ローサ 他

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松山ケンイチさんと松雪泰子さんはちょっと仕事選べよ!と
どれだけ言いたくなったかわからない(笑)
「僕がやりたかったのは、こんなバンドじゃない~~」のヘナヘナ根岸からクラウザーさんまで
やっちゃう松ケンと、「そんなんじゃ濡れねーんだよ!」を始めとする粗暴な振る舞いをしちゃう
松雪さん。CMでは「駄目だろ」という印象だったけれど映画では結構普通に嵌っています。
以来、「これ松ケンの素だろ」というイメージがあります。最近はちょっと違いそうだけど。
トンデモとしては、佐治くんのモデルだったからといって、カジヒデキさんが本当に出ちゃうとか。
更に、観てないんですがアニメ版になると、この漫画のファンだと公言している長澤まさみちゃんが
相川さんの声を担当していたりとか!(実写版では加藤ローサちゃん)
「漫画のサブカルぽさが失われた」と原作ファンからは不評の向きも少なくなかったそうなんですが
原作ファンにも関わらず私は何も支障なく楽しく観られたんですがねぇ、ファンが浅い??

映画のオリジナルエピソードで、根岸のお母さんのいいシーンがあって、真面目にホロリと
してしまいました。宮崎美子さんに泣かされてしまいましたね。
原作でも親子の絆のエピソードは温もりたっぷりに描かれていて、それが根岸の純朴さを感じさせて胸にしみるのですが、こうして実写で登場すると泣きのツボを突かれて困っちゃいますね。
ただひとつ、ジャギ=和田くんの改変はいただけない。和田くんは根岸よりしっかり者で
リーダー格で常識人なのが、お調子者の八方美人キャラになってしまった。
根岸と和田くんのリスペクト関係(和田くんはステージ上の根岸に、根岸は普段の和田くんに)も
面白いのに、尺が足りなくなるせいか薄っぺらいキャラに。この一点に限っては残念としか。
全体的には、漫画の映画化としてはがっかりが少なかったほうだと思っています。



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