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橘いずみ:どんなに打ちのめされても+ごらん、あれがオリオン座だよ「時代を超える熱い言葉の雨にうたれて、熱い歌に心ゆさぶられ」

噛みつくような歌唱。余りにもストイックなまでに自虐的な歌詞。
さめきって鋭い眼差し。自分をまるごとぶっつけるような激しさ。
そんな彼女を時に人は「女・尾崎豊」と称しました。
彼女の名は橘いずみ(現在は結婚したことを機に榊いずみと改名)。
実際にプロデューサーも尾崎豊と同じ須藤晃氏だったというのもあるでしょう。
そして、出てきた当初は「女・尾崎豊」を売り込む側も狙っていたふしが
ある気もします。
たとえばこんなジャケット写真で。
橘いずみ1
アルバム「どんなに打ちのめされても」。
自分を護るように着込んだデニムの上着に、からだをくるむツタのような枝。
アルバム発売が昔だったこともあって本作などの画像がなかなか無いのですが、
ブックレットの裏表紙で正面を睨み付ける表情はまさに「女・尾崎豊」そのもの。
このアルバムを私が入手した理由はただひとつ、この曲が入っているから・・・
橘いずみ2
最近「モテキ」映画版でも使われたという、インパクト大の名曲「失格」。
橘いずみが流行っていた頃は私は小学校低学年くらいだったので全くリアルタイムでは
ないのですが、ラジオなどでこの曲をたびたび耳にする機会があり、そのときから
「この曲は?!」と、ずっと曲の全体の姿やアーティストの正体が引っかかり、
高校生から大学生にかけての時期、このアルバムまで辿り着きました。

自分の言いたいことを私は何も言わない
自分のやりたいことを私は何もできない
自分の為に泣いても人の為には泣けない
主義・主張を叫んで外を歩く勇気なんかない
ひねもすベッドに寝てるのは病人か赤ん坊
何もかもが嫌になるにはまだまだまだ若すぎる
誰かの喋る言葉で心なんて弾まない
明るく元気だけが取り柄の女になれない
他人の視線ばかり気にしてる人を認めない
社長の意見は必ずしも正しく思えない
月夜にいつも女はキスを待ってる訳じゃない
安いベッドは軋む音がうるさくて気が滅入る
愛してないのに抱かれ他の人を夢見てる
パチンと弾けて落ちたピンクのバラの花びら

何事かと思いました。一気にこんなにまくしたてられ。
しかも妙にラップ調で、でもラップではなく紛れもないロックで。
2番だともっと自伝の色合いが強くなり「そこまでバラしちゃっていいの?」、そして遂に

あなたは失格!そうはっきり言われたい
生きる資格がないなんて憧れてた生き方

なんてズバッと言われた日には、もう途方に暮れるしかありません。
あるCDのレビューで、アラニス・モリセットのことを「ヒステリー」と称していましたが
橘いずみは、ある種、和製アラニス、いやアラニスの先取りをしたような・・・??
その「ヒステリー」が世の中に大きく受け入れられてしまうあたりも。

CDで歌を聴いていると、どちらかというと「女・尾崎」より「中島みゆきのフォロワー」
という印象を受けました。なんだか暗いし、歌い方がなんとなく似ているし、
楽曲がどこか歌謡曲~演歌(いま聴き直した感想ではフォーク)風味だし。
音の作り方も当然ながら90~00年代中心のリスナーの自分にとっては少々古く、
昔の音楽を聴き慣れた今、聴き直すとそうでもないですが、出会った当時の私には
本作の音楽はちょっとキツいものがあり、「失格」ともうひとつの名曲以外に
なかなか「聴いて楽しむ」ということは難しかったというのが率直な感想です。
アルバムタイトルの由来となっている「打ちのめされて」。

どんなふうにでも生きてゆける
例えばつまずいても 膝抱え泣いても
もしも暗闇に放り出され
どちらを向いてみても 何も見えなくなっても

 正しい答をつきつけられた時
 自分の答が何もかも違ってた
 強く傷ついて 心砕け
 優しい言葉でもっと 深く打ちのめされて


若さからくる不安定さ、貪欲さ、厳しい現実、鋭敏な感受性、根っこのしぶとさ。
本作くらいの時期だと「潔癖で純潔な少女」の顔も残っていて。
自分の曲の全ての作詞作曲を手がける彼女ですが、曲や恋愛の歌などには余り突っ込んだ
関心が出ず(恋愛の曲は、ちょっと重いタイプというか、トゥー・マッチな感が・・・)、
専らこうした「人間の業」「内省」「生きること」をテーマとした2曲を主に聴いていました。
そして、今回記事を書くにあたって聴き直すまで、橘いずみというアーティストは、
私にとっては聴くためではなく、言葉の雨にうたれるためのアーティストでした。

その様相がちょっと変わってくるのがこの作品。(「どんなに打ちのめされても」も
ロック×フォークとして、魅力的な作品ではあるのですが)

ごらん、あれがオリオン座だよごらん、あれがオリオン座だよ
(1996/03/21)
橘いずみ

商品詳細を見る

この頃になると見た目もご覧のようにすっかり女らしくなって、
「失格」のように自分の頭に銃口を向けながら紡いだような曲は減っていきます。
一人芝居「真空パック症」を95年から97年にかけて行っていたこともあるのか、
歌詞、そして歌もどこか演劇的。モノローグも時折みられます。
あまり詞を抜粋してとりあげるような「胸にささる」歌詞は減る一方、
風刺、自虐、狂気ぎりぎりの情熱や奔放さ(舞台の上と考えれば納得かもしれない)が
すっかり定番スタイルとなったラップ~フォーク風の言葉畳みかけの上で踊ります。
そして大きな変化はアレンジ。SEなんか登場したりもして、わりあい今聴いても古さを
感じない、当時でいえばいまどきの音、目新しさのある音を全体に用いていて、
曲もキャッチーでまとまりが良くなり、耳で聴いても十分楽しめる作品になっています。
調べてびっくりしたのが、あの韓国ドラマ「冬のソナタ」のテーマ曲の一部に、
本作収録の「26-Dec.11th, 1968」という曲が使用されていたこと。
そうだっけ?!熱心に韓国ドラマを観ていなかったのもあり、全然記憶にないのです。
でもそう言われて聴き直してみると、歌詞を取っ払えば、見事に冬ソナのあの曲に。
しかしまた意外なところから・・・どういうご縁で??

そんな中で歌詞に見入ってしまったのが「自分」とこれまたダイレクトなタイトルの曲。

愛がすべてを救ってゆくのなら
君はどうして自分捨てられない
やさしさとか いとしさとか
計算するのはやめにしよう
(中略)
愛がすべてを救えるのに
どうして自分を捨てられない


紹介したのはサビ部分。言葉数が多くギラギラした雰囲気の歌詞・楽曲が多いなかで
少ない言葉と心洗うようなバラード、感極まった熱い歌。
バラード調の曲で多いのですが、感情移入しすぎなのか、涙を堪えるように、
あるいは泣きながら、歌っているのでは?と思われるような場面がみられます。
最初「高音が出ないのか?歌唱が安定していないのか?」と思っていましたが
他の曲では十分に出ていることから「そうか、泣いているのか、泣きそうなのか」と。
こういった「過剰な熱さ」みたいなものも「女・尾崎豊」なんでしょうか。

「女・尾崎豊」だけあって、04年には尾崎のトリビュートに
路上のルール」で参加しています。
このアルバムで彼女の存在を知った人もいるのでは?

BLUE ~A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI (CCCD)BLUE ~A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI (CCCD)
(2004/03/24)
オムニバス、斎藤和義 他

商品詳細を見る

Coccoの「ダンスホール」、Mr.Childrenの「僕が僕であるために」、
斉藤和義の「闇の告白」などなど、印象的なカヴァーが沢山つまっていた本作のなかで、
そういった現代のビッグネームにもひけを取ることなく、
色褪せずしなやかで強い彼女のヴォーカルがキラキラ輝きを放っているのが
なんとも頼もしく、「元気にしてるんだな、良かった」と嬉しい気持ちにもさせられました。

現在では旦那さんの苗字というか新しい本名「榊いずみ」として活動、
ふたりの女の子のママでもあるそうで。
そして今年7月には、デビュー20周年ということでオールタイム・ベストをリリース。

GOLDEN☆BEST橘いずみ+榊いずみ〜20th ANNIVERSARY〜GOLDEN☆BEST橘いずみ+榊いずみ〜20th ANNIVERSARY〜
(2012/07/25)
橘いずみ

商品詳細を見る

オリジナルアルバムはもう取り扱っていないお店が多そうですが、
こうしたベストアルバムなら買えたり、レンタルしたりできるのでは?
時代をきっと超える、熱い言葉、熱い歌、その奥にあるあたたかさ
初めてふれてみては、または、久方ぶりにふれてみては、いかがでしょう。
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テーマ:女性アーティスト - ジャンル:音楽

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