2017-09

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イマドキのタバコのオマケ!?ミニ小説を読んで:狗飼恭子「すべてのものに降りそそぐ」&田口ランディ「ラーレの香り」

もう数週間前の話になってしまうのですが。
以前の記事で、「チョコレートを特集した番組について書いていたら、本当にチョコレートを
作ってしまった」というまさかのオチが登場しましたが、実はあれは実話でして、
バレンタインを前にして、丁度良い量のチョコレートをせっせと作り、完成してしまいました。
こんなことは初めてなので味に自信などありません。でも一人でおやつ代わりにするのも
少なくとも外側はそれなりに出来たから、惜しいような気がする・・・
そこで、6個できたチョコレートの内、付属のボックスに入る4個を当時のそういう相手に、
残る2個の内1個くらいはやはり自分で。さて、もう1個をどうしよう?
「そうだ!」普段何かと世話になっている女の子の友達に、初めて作ったので味は保証できないと
前置きして、ささやかにプレゼントしました。

そして3月14日頃・・・
初心者のチョコレートをもらってくれた彼女が、何やらこそこそと「これ、朝やけさんに!」と。
彼女らしいオンナノコモードの包みを開けると、掌に乗るような超ミニサイズの2冊の本が!
「ありがとう・・・何これ?どこで売ってたの??」興味津々でそう聞いても、彼女は口ごもったり
「えーと実は、、友達に貰ったんですっ!すみません!」何か煮え切らない様子。
ちょっと引っかかりつつも、こちらがあげたプレゼントこそ本当に些末なものだったので
まぁいっかと、貰った2冊の本を開けて読み始めたのでした。
小さな本なので、普通の小説の一章分を読むくらいの時間で読み終えてしまいました。

「どこの企画なんだろ?」巻末を見ても出版社の記載が2冊ともありません。「どういうことだ?」
ヴィレッジ・ヴァンガード辺りで、企画ものとして2冊3冊まとめて売っているとか?
Wikipediaの二人の作家の経歴を見ても作品の記載はなく、ひとつくらいはあってもよさそうな
Amazonのレビューもなく。それで、キーワードを変えてもっと調べてみたら・・・
何と、「ピアニッシモ」という銘柄のタバコのオマケのようなのです。
(商品について書いてあるのは個人のblogやTwitter等や、オークションの商品としての掲載しか
無いので、それらを載せたり引用したりすることは控えさせていただきます)
2冊の裏表紙にはこう書いてあって、これがこのオマケのコンセプトになっている模様。

2012年、夏。
読めばきっと、恋がしたくなる。
くつろぎのひとときを彩る
短編恋愛小説。

「・・・何かイージーだなぁ」貰ったものに失礼ながら、そういう感想を止められませんでした。
ピアニッシモというのは女性向けのタバコ。というわけで「女子といえば恋だろ」って発想の
企画なんでしょうね。「一体小説を何だと思っているんだろう?」大変偉そうですが、何かの
「オマケ」にされている事実に溜息が出そうになりました。それに、書く方も書く方だ、なんて。
決して悪い小説ではないのですが・・・


まず狗飼恭子さんの作品「すべてのものに降りそそぐ」。
Amazonでの取り扱いがあるはずもなく、画像は作品名で検索して見つけたもの。
すべてのものに降りそそぐ
原寸大よりほんのちょっと小さいくらい。

<あらすじ>夏子は5年同棲していた恋人から「どうも君とは死ぬ間際に一緒にいられる
気がしないんだ」と言われてしまい、彼と暮らしていた家を出て一人暮らしをすることに。
女友達からは「孤独な偏屈ばばあになって孤独死することになるよ」と大反対されながらも
引っ越しを決行。新居への荷物の搬入を手伝ってもらうために、三代前の彼氏の弟で
かなり風変わりな男の子、水戸くんに何となく連絡をとる。数年ぶりに再会した水戸くんの
偏屈だが本質を突いた、どこかあたたかい言葉の数々に、次第に失恋の痛みがほぐれ・・・

<感想など>
狗飼恭子さんの小説は読んだことがないが、彼女が脚本を手がけた映画なら観たことがある。

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池脇千鶴、中越典子 他

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好きだった漫画家、魚喃キリコさんの漫画「strawberry shortcakes」の映画化なのだが
4人いる主人公のうち、一人を棺桶で寝起きさせるわ、摂食障害の主人公の場面をリアルなゲーで
何度も撮影するわ、いらんリアルとエキセントリックをつけられて不快極まりない作品に変身、
この恨みと違和感が未だに残っている。最近では江國香織さんの「スイートリトルライズ」が
映画化された際も脚本を手がけているという。一体どうなっているのやら・・・
そういうわけで、その場で捨てようとさえ思ったが、なにせ貰ったものだからと読んでみた。

ヘンテコリンな人物の巣窟。とりわけ元彼と水戸くんのヘンテコリン振りが際立っている。
女友達の言うこともなんだか変。本当に友達?夏子の不幸を願っているようにしか聞こえないし
主張が時代錯誤。まぁ、だから夏子は彼女達に引っ越しを手伝ってもらわないのだろう。
夏子は「三代前の彼氏の弟」なんてさらりとモノローグで言ってのける辺り、少し腰が軽い
水戸くんが言うところの「頭でっかち」、本人が言うところの「考えが足りない」30代女性。
夏子のややジメッとしたモノローグが彼女のどこまでも堂々巡りする思索と抑えている淋しさを
ねちっこく、鮮やかにあぶり出す。そして、水戸くんについても夏子の視点から細かく観察され
言動や佇まいなどを仔細に追いかけることで、彼のエキセントリックさがはっきり浮き上がる。
水戸くんというあまりにも強烈なキャラクターの存在、夏子の揺れる心情の巧みな描写が
突出している。人物、背景・・・観察眼が光り、情景が目の前に繰り広げられるよう。

たまに、こだわりすぎの心情比喩フレーズなどが出てくるが、見なかったことにしよう(苦笑)。
夏に恋をしたくなってもらいたくなるための小説なので、ラストでの水戸くんと夏子の決断が
あまりに性急すぎるのは仕方ないのだろうか。再会したその日にプロポーズもどきときている。
しかも夏子は何となくそれに応えてしまう。いいのだろうか、まあいいんじゃないの?
・・・読まずに捨てそうになって、ごめんなさい。小説家としてはそんなに嫌いじゃないと思った。


次に田口ランディさんの「ラーレの香り」。
ラーレの香り
<あらすじ>
チエは、会社の先輩の松岡さんに3年間片想いをしていたが、彼の結婚の噂を聞いてしまう。
ダメモトで告白すると「妹のように思っていた」「少し時間を置きましょう」と言われ、
傷ついたチエは、ストレスから味覚や嗅覚を失い、会社にいるのもつらくなって退職。
家に届いていた松岡さんからの手紙も、読まぬまま郵便受けに放置し、塞ぎ込む。
憂鬱な気持ちで散歩をしていると、見慣れない花屋「ラーレ」を見つける。店員の青年に
勧められて一輪買ったチューリップが、チエの生活に再び彩りを与えていき・・・

<感想など>
「ラーレ」とは中近東の言葉で「チューリップ」の意味。
田口さんの小説は、確か高校生の時に実家の町の図書館で、彼女のデビュー作「コンセント」を
借りて読んだのが唯一の経験だったように思う。
内容にも文体にも当時はどうも親しみを感じられず、最後のほうまで読むも、結局読了しないまま
ギブアップしてしまった記憶がある。「この人が恋愛小説?」寧ろそういう意外性を感じつつ
当時読了できなかった経験からの不安もチラリと頭をかすめた。でも構わず読んでみた。

良くも悪くもよしもとばななの後追いという印象。主人公の心の病みとそこからの癒しの過程、
意図的に稚拙さを狙った言葉選び。初めて読んだ時と作風が随分変わっていたので驚いた。
「すべてのものに~」が、ややはすっぱな30代女子向けだとしたら、この作品はもう少し
うぶな女性向け。チエの幼さから考えると、20代女子向けか?こういううぶな女性がタバコを
吸うものなのかなあという、偏見めいた疑問が浮かぶのだが。例えばチエがタバコをふかす姿は
とても想像できない。一人で一方的な「恋愛ごっこ」を繰り広げて疲れてしまうくらいなのだ。
しかし、チエが具体的にどんな雰囲気の女性なのか、イメージできそうでうまくできない。
「かわいいキャラも苦手」な「つまらない女」で、特に好きなものもなく、頭がよさそうとは
お世辞にもいえず、モノローグでは「~かしら」「~わね!」と言ったり「~だよ」と言ったり。
無機質で没個性ななかに、中途半端に女性らしさらしきものを覗かせるので違和感を覚える。
店員の青年の設定が面白い。誰もが、趣旨(=恋をしたくなってもらう)からして、
この青年とチエが新たな恋に落ちてハッピーエンド、という展開を予想するのではないか。
しかし彼はそうはいかない。

青年は、花に恋をしているという。報われないが、ずっとしているという。
チエの側でも青年に恋愛感情をもつことはない。なかなか肩透かしを喰らう展開だ。
出だしの時点で語られ、その後も比喩で何度も顔を出すが、放置していた松岡さんからの手紙を
やっと開くと、実はそれなりに両思いだということが判明する。しかしこの手紙、彼自身も
言っている通り、遠回りだわ古風だわ、色々とついていけない。手紙を放置してからそれなりに
時間が経っているはずなのだが、これってハッピーエンドなのだろうか・・・???



「恋をしたく」なったかはともかく、「くつろぎのひととき」より「突っ込みのひととき」に
なったような気がするのはともかく、
「鞄に常備している漱石の文庫本を病院などの待ち時間に偶にのぞくぐらい」だった
停滞していた読書ライフに、ちょっとした風穴をあけてくれたのは確かでしょう。
この二人の現在の小説を(ショートショートですが)ちゃんと読んだのは初めてだし。
読書への恋慕という意味なら、確かに「恋がしたく」なるきっかけをもらった本になりました。
ベッドの上には小説やら新書やらはたまたマナーブックやら、色々な本が読み切れないまま
雑多に積み上がっていますが、また、本の虫だった昔のように、時間を忘れてずーっと
これらの本の読破にのめり込んでしまうのも、ちょっといいよなと思いました。
子どもの頃から、本を読むのが大好きで、フリーペーパーでもいいから常に手元に
読むものがないと落ち着かない活字中毒。
今は書くのも定期的に楽しんでいるけれど、よりよく書くにはもっともっと読まなければ。
たまには書くのをしばらく放り出して、読みまくる期間が欲しいなんてちらっと考えながら、
結局また新しい記事の構想を思いついて下書きを始めてしまう、そんな今日この頃です。



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小説の漫画化:その1 夏目漱石×榎本ナリコ『こころ』 「突っ込み所も多々あれど、小説の本質を違う角度からあぶり出し、現代に問う」

コミックレンタルの棚を見て廻っていたら、これでもかと並んでいる
文豪の名作のコミック化、もしくは名作をモチーフにした漫画。
流行っているようですね。
小説のほうを全く読んでいないですがボードレールの「悪の華」にちらっと
なぞらえたブラックな漫画が大きく紹介されていて、絵柄もシュールで可愛くて
ちょっと読んでみたいけれど、ボードレールにノータッチでも良いものですかね。
まぁいいのか。
他にもいっぱいありましたが、多かったのは文豪の小説の舞台を現代の日本に移したもの。
ドストエフスキーの「罪と罰」のコミックとか気になるけれど、ページを開くと怖かった(笑)
太宰治の「人間失格」のコミックも大分ホラー風味かと。興味本位で読むかもしれないけど。

さて、そんななか、以前「文豪ナビ 夏目漱石」を紹介した、我らの(私の?)夏目漱石さん。
色々ありそうな気もするし、あんまり聞いたことない気もするし、と思っていたらありました。
あの「こゝろ」が現代版になってやってきた!
その名も「こころ」。

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(2005/05/14)
夏目 漱石、榎本 ナリコ 他

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大分絵柄が少女~女性漫画のそれで、男性読者にはどうなのかな?と懸念はありますが
ヒロインの胸やお尻のラインの強調や、全裸の性行為シーンがあるあたり、ターゲットは
とくに女性でもなさそう。サービスサービスぅを考えると寧ろ男性向けに描いたのかも。
女性向け雑誌から出ている漫画にもそうした描写はあるから、どちらとも取れるか。

榎本ナリコさんて誰?聞いたことあるようなないような感じだけど」と調べてみたら
少女~女性漫画を描いてて(画を見ればそれは分かるが)、プラス「野火ノビタ」という名前で
批評活動も行っており、新世紀エヴァンゲリオン幽遊白書等の漫画評論と「やおい」論による
批評集『大人は判ってくれない 野火ノビタ批評集成』が「センス・オブ・ジェンダー賞 特別賞」
という賞を受賞。エヴァがアニメ→映画化される際、あの庵野監督が直接この人に意見を聞きに
いったという話を知ったときは開いた口が塞がりませんでした。
そしてこの別名でべつの活動もしており、それが同人誌活動。つまりご自身も「やおい」な訳で。

そうするとすぐに思い出すものが。
「文豪ナビ」の寄稿で三浦しをんさんが「こゝろは先生と主人公との男色風味がする」と
仰っていたこと。しをんさんは「この作家、ちょっと変わってる」というニュアンスで
(女性との描写は超弩級のロマンティストでウブなのに、男性同士の描写は
非常にねっちりしている、といった)、女性慣れしていないのでは?変わり者では?
という風に話を進めていたのですが(それでも何かはしゃいでいる感じが気持ち悪くて、
「文豪ナビ」の感想ではそのあたりをぴしゃりをはねつけてしまったのですが)
この漫画化で嫌な予感が確信へ・・・

「『こゝろ』って、腐女子ホイホイなんですか?!?!」

うへぇ、ふざけるな!漱石先生を汚してんじゃないぞ!!!
ただコミックを全部通して読んだ感じでは、さすがに漱石先生が元ネタで、しかもこれは
同人誌ではないとちゃんと線引きされているようで、あまり「男色漫画」という印象は
受けませんでした。
とはいえ先生と主人公との関係は、主人公が頬を赤らめたりして、やっぱり怪しい。
でも先生自身が「あなたはとっくの昔に、恋で動いている」「私のところに来たじゃ
ありませんか」って小説で言っちゃっているし。しをんさんが仰っていたことが
何だかちょっと分かるような「先生と私」部分でした。

「先生と私」「両親と私」をあわせて全体の3/10で、メインは「先生と遺書」部分。
こちらは普通の三角関係ものの恋愛漫画かな。


さて、明治~大正時代の狭間に書かれた「こゝろ」と、現代に置き換えた新解釈
「こころ」では、どんな風に違って、なにが見えてくるのか?
そのあたりを辿ってみましょう。

『明治天皇の崩御、乃木希典の殉死を契機に、「明治の精神」への殉死』
(Wikipediaより)といった背景があるわけがない。

「こゝろ」ではこれが根底にあるから先生が自死するのですが、そんな要素は盛り込めないので
単に(?)Kへの裏切りからくる自責の念から、「死にたがり」として20年を過ごし
「死ぬ前にたったひとりでいいから、人を信用して死にたい」という願望が、主人公と
親交を深めたことで達成されたと感じて「死んだ気で生きていく」人生の幕をようやく閉じる
決心がついたという、気持ちの流れになる。
「ちょっと一人で考えすぎ」とも感じるけど小説の先生も似たようなものだからな。

主人公と先生は海で出会わない。主人公がふと墓地に足を運んだときに
Kの墓の前でじっと立ちつくす先生を見かけたのがファーストコンタクト。
そして、主人公のアパートの向かいに先生の家があって、
空き家だと思っていたその家から先生が出てきて「そうだ。あの男だ」と気づく。

なんか、海なんて到底出かけられなさそうな、心身共に慢性的に病んでる感じの先生なのと
Kと海でやりとりしたのがトラウマになった描写か、海で出会うような陽気な展開はそりゃ
出てこない。主人公自身が無気力で「あーオレ、ウツなのかも。」って言うくらいだし。

主人公と出会う頃、先生はKの月命日を除いて20年間も引きこもり生活
単純な疑問として、毎日の食事はどうしてるの??ってどうしても聞きたいです。
近所の人が「引きこもり」と噂していたけれど、食事や食材を調達する人がいたら
それも噂されているだろうし。主人公もお手伝いさんなどに出くわした様子はないし。
「引きこもり」が一般的な問題となった世相を考えると、この設定を持ってきたのは
分からないでもないが、引きこもりは一人では出来ないのですよ。
お墓参りのついでに1ヶ月ぶんの食材を買い出し?主人公が同伴した際は、そんな
食材まみれの先生でもなかったし、夜中にご近所さんに知られぬよう買い出し?
どうにせよちょっと無理のある設定では。
小説での「働いておらず、世俗と離れた生活をしている」感じを出したかったのだろうが。

主人公が先生の長い長い手紙(遺書)を読んだ場所は、東京行きの電車の中ではなく
お父さんの入院している病院で、看病をお母さんと代わった合間に読んでいる

これは現実的だったような。小説のほうが、あんな長くて分厚い手紙をパラパラ読みだけで
「先生がどうもヤバいらしい」ってよく気づけるな、という印象があったから。
因みに、小説ではお父さんは以前から調子が優れなかったのが悪化して帰省だったが、
漫画では、倒れる→大事には至らず、主人公すぐ帰る→再び倒れ、危篤状態へ、以前倒れたのは
やはり発作だった→主人公、再び帰省してお母さんと共にお父さんに付く、になっている。

「先生と私」「両親と私」部分が現代なのに、その20年前であるはずの先生たちの
住んでいる世界がどう見たって20年前には見えない。現代になっている。

パラレルワールド?主人公の想像の世界??これはおかしい。
静の服装が今ふうなのが最たる象徴で、買い物に出かけた時の町並みもそう。
話がわかりにくくならないか?レトロな町並みや服装では読者がつかないって?
今ふうのほうが「先生とKと静の三角関係」に集中できるって?
うーん納得できません。

現代(20年前にしたって)で、お坊さんの生まれでもないのに(医者の一人息子)
数珠を常備、「精進」「道」を連呼するKさん

どう見ても新興宗教の人です。小説でも極端な人物だと感じていたが、このように
現代にぶち込まれると、完全に逝っちゃってる。格好良い男の姿で描いてあるけれど
先生の裏切り以前に、その逝っちゃった極端な思考ではどちらにせよ自死しそう。
これは小説でも感じること。Kの自死は先生のせいばかりではないのでは?
まぁ同じこと(その極端な思考じゃ生きられないわな)は、のちの先生にも言えるわけだが。

静がイマドキのエロい子
先生の奥さん「静」は、漫画では「静子=シズちゃん」と名前がつけられている。
「シズちゃん」って書いていたら、以前に記事を書いたせいもあって、どうしても南キャンの
「しずちゃん」を連想してしまって笑いそうになったけど、このシズちゃんは可愛い子。
明治~大正と現代との時代性の違いもあってシズちゃんが幼稚な言動。
身内でない男が二人もいるのに太もも丸出しのタイトなミニスカートはいて、我が儘言っては
しょっちゅうお母さん(=奥さん)に怒られている。
疑いを知らない無邪気な感じ、男二人を魅了しちゃう魔性の魅力は出ていると思う。

静(静子)は先生が好きだったから、先に告白した先生と出来たのか?
先に先生に言われたから先生と付き合ったのか?Kでも良かったのか?

小説でも謎が残らないでもない疑問で、漫画でも静子の言動が、Kと静子が近づくうちに
どちらに気があるのか、どちらにもないのか、どちらにもあるのかわからなくなっている。
先生が静子の家に下宿してきて、静子と二人で買い物に出かけ、その際に静子に服を
買ってあげた→その様子を先生の同級生に目撃され「彼女」とひやかされた、のを
きっかけに、何となく静子はポッと照れた表情をして、先生は静子に惚れたのだが、
先生がKを同居させ、静子がKのひざが出たジーンズを繕ってから、関係が変化し始める。
Kが静子に宿題を教える、Kと静子の二人きりで出かけ「どこへ行ってたかあててみて」
と先生に言うなど、静子の態度は無邪気なようにも、先生をじらしているようにも、
二人の男に淡い好意を寄せられてまんざらではないようにも、
二人を翻弄しているようにも見える。
そして、小説では先生が奥さんに「お嬢さん(=静)を私に下さい」と頼むが
漫画では二人きりになった先生が静子を抱きしめて告白、静子は
「・・・いいよ。Sさんなら、あたし・・・」と先生にしがみつき、二人は肉体関係を持つ。
小説では静の意志が奥さんに言い出した時点では分からないし、
漫画では静子は「好きだから」というより「セックスをしてみたい」という風にも取れる。
静(子)のほうでも先生が本命でKは仲の良い同居人に過ぎなかったのか。
静(子)には下心はなくとも、Kは自分に気があるのかと揺れるし先生は嫉妬する。
Cからはじまる恋愛、お見合いで双方が同意し恋愛結婚に近い結婚をすることもある。
謎が残るが、確かだと思われることは、
静(子)の態度が明確ならば、先生もKもあのような苦悩はしなかったし、
「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」とやり合うこともなかった。

主人公と出会った時、静子は先生と連れ添っておらず、先生は一人暮らし。
Kの自殺の後に婚約するも、先生が静子に別れを告げる

本作の、時代以外で最も大きな、そして決定的な違い、新解釈。
「妻が己れの過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存して置いて遣りたい」
ことが、小説で先生が静にKへの裏切りを打ち明けない理由。
「静が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、
凡てを腹の中にしまって置いて下さい」と遺書は締めくくられる。
漫画では、Kの墓参りに二人で訪れた際、婚約し、静子が学校を卒業したら結婚すると
静子が墓前で報告し、「ね、Kさんも、祝福してくれるわよね」と先生へ振り返る所で
「自分が最も信愛しているたったひとりの人間すら、自分を理解していないのかと思うと、
理解させる勇気がないのだと思うと、悲しかった」と先生が落涙。
「私はどこからも切り離されて、世の中にたったひとりでいるような気がしました」
そうして突然の「静子。―別れよう」。
どちらも、「自分がKを汚いやり方で出し抜いて静(子)を手に入れた人間であり、
しかもそのせいでKは深く傷ついて死んだ」事実を静(子)に知られたくない心。
静(子)の心を守るようで実は自分を守りたいだけ、小説では一人置いていくことで
漫画では捨てることで、結局静(子)を深く傷つけている。
静(子)は愛する人に本音を打ち明けてもらえない痛みを、喪失感と共に抱えることに
なるのに、先生はそれよりも自分の罪悪感、自分の恥を打ち消すほうに執心する。
「自分を理解しておらず、理解させる勇気もない」愛する女との対峙の仕方の違いは、
時代性(簡単に婚約を破棄するわけにいかない)や状況(奥さんに直接願い出た)に
由来するものだろうと思われるが、印象としての相違は、
静を妻とし続けた末の自死とした小説では、「妻への愛が大事だが、気づかぬうちに
自分のエゴや罪悪感がそれを上回っていた」だが、
静子と別れ独りで生き続けた末の自死とした漫画では、「自分のエゴや罪悪感が
恋慕を上回って、人生を支配した」となり、Kとの一件がより大きな傷となって
えぐり出されているように見える。こちらの方が救いがない。ひたすら孤独だ。
小説では「それでも静がそばに居るなら、黙っていれば幸せで居られるだろうに」と
言う余地があるが、静子を捨てたのならその余地すらない。

そして漫画を読んで、ふと小説にも通じる疑問が沸きました。

主人公の青年は疑似静(子)なのか、疑似Kなのか、それとも
無邪気で単純で疑うことを知らない青年。先生をひたすら慕う青年。
それは静(子)の素直さとよく似ていたのかもしれない。
あるいは、Kとのあいだにかつてあった、健気な友情に似ていたのかもしれない。
男色ととるのもよいが、こういった「失われた関係」を補填する役割として
青年の存在が先生のなかで大きくなって、秘密を打ち明けるに至ったと捉えるのはどうか?
また青年としても、尊敬できて神秘的な同性に興味や憧れを持つのは自然な心の動きでは?
一概に男色(=恋心)と捉えるのは、こころを単純に分別しすぎではないか?
同時に、一概に「疑似」「補填」と捉えるのもまた、こころを単純化しすぎではないか?


現代の言葉遣いや話の展開に、ふぁさりと漱石のあの名文が被さる。
そこで少しぞくりとさせられます。
漱石の言葉の魔力や世界観と現代劇との攻防。
絵の荒さや、ここまでで指摘してきたちぐはぐな設定も一部みられますが
一気に読んで振り返ってもう一度読んで、記事を書きながら考証していくと
「こゝろ」が伝えていたのは何だったのか?先生はどうすればよかったのか?
もし先生と同じシチュエーションに置かれたら自分ならどうするのか?等々、
真摯に考えさせられ、もう一度小説「こゝろ」を読み返してみたくなります。



まぁ、ただ、最初に書いたほかの文豪小説の漫画化などと同じく、
小説を漫画などの可視的な媒体に置き換えると、小説で描かれている内面の苦悩って
どうもおおげさに見えてしまう
きらいはありますね。
「ちょっと暗いよ」「病んでるよ」「考えすぎだよ」と。
逆にいえば、漫画をそのままノベライズするときっと軽薄になる。
それぞれの媒体のもつ特性、得手不得手についてもちょっぴり考えさせられました。



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