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Syrup16g 前編:COPY,coup d'Etat,delayed「無気力はある種の癒し?弛緩した音世界と救いのない言葉に、身を任せてみる」

Syrup16gシロップ16グラム)を知ったころ、そして流行っていたころ、
私は大学生で、その年頃にはよくあることとして、病みがちでした。
周りの人間も多分に病んでいました。全員とは言わないまでも、少なくない割合で
その人の言動の少しずつから大半と程度は様々ながら、やはり病みがちでした。
Syrup16gは、そんな時期に知り、そんな周囲の人間に教わったこともあって、
「病んだ人間のための音楽」と認識していて、そういう時期を過ぎた今では「悪い思い出」
として、あまり聴きたくなくて遠ざけていましたが、かといって捨てることもできず。

最近、CDが収まらなくなり、整理のために昔のCDを出してきたら、Syrup16gのCDたちと
再会しました。どうしようと迷ったのでとりあえず聴いてみたら、案外大丈夫。
病んでいた頃のエピソードや病みを描いた歌詞は、今はある程度遠くの記憶として
割り切れて、病みに関係ない要素、「美メロ」「ディレイを多用したギターサウンド
ときに荒涼として、ときに温かみのあるアレンジ」などに心地良くなりました。
思えばあんまりあからさまに病んでない「普通っぽい人」にもSyrup好き結構いたもんです。
当時「どうしてだろう?」って彼らの事を疑問に思っていたのですが、疑問が解けました。
そっか、「病み」関係なく、音楽として気持ちいいんですね、このバンド。


Syrup16gは1996年に専門学校の同級生で結成され、2008年に解散と、一応10年以上は
もっていたのですね。
バンドの中心人物でほぼ全曲の作詞作曲を行うVo/Gの五十嵐隆さん、
ライブ中によく大声で叫び、よく上半身裸になるというDrの中畑大樹さん、
初期に在籍したBaの佐藤元章さん→2002年後半から加入したBaのキタダマキさんによる
オルタナ/グランジ系の3ピースバンド。
インディーズで2枚のアルバムなどをリリースした後、2002年にメジャーデビュー、
その年の6月でベーシストが佐藤さんからキタダさんに替わるメンバーチェンジを経て
2年強の間にフルサイズのアルバムを4枚発表するという、生き急ぐかのようなハイペース。
今回の記事では、インディーズ時代のアルバムとメジャーでの1st、2ndという
比較的「初期」といえる時期についてとりあげます。



COPYCOPY
(2001/10/05)
syrup 16g

商品詳細を見る

君に存在価値はあるか
そしてその根拠とは何だ
涙流してりゃ悲しいか
心なんて一生不安さ


これはインディーズ時代のアルバム「COPY」収録の「生活」の歌詞の一部ですが
私達、なんかグサッと言われてしまっています。
まぁ言わずもがな「君」と言いながら自分自身に向けて書かれているのですが
それでもフレーズが耳に入ったとき、思わず振り返ってしまうような威力があります。
考えすぎて思い詰めすぎて不安で感情が溢れている自分を、自虐的に突き放すフレーズ。
自分に対する愛が足りない印象をまず受けますが、改めて見ると客観的ともとれます。
自分の存在価値だの根拠だの難しい理屈をこねくり回し、挙げ句の果てに涙まで流している
そんな現在の自分の姿をありのままに受け入れているとも。
「心なんて一生不安さ」そう言って理屈っぽくて不安に駆られやすい自分を受け入れて
ドライに捉えると、かえって楽になれそうです。
少なくとも「頑張ってこの弱さを乗り越えるんだ」って唄われるより遙かに気楽です。
Syrup16gの楽曲の世界、五十嵐さんの人生観は、内省的で「病み」を常に孕みながら
いつもどこか客観的で醒めていて、いっそ悟りが入っていて、無気力で退廃的で
それがかえって、ある種の「癒し」として作用したりします。


未だノーチェックながら(後のアルバムに再録で殆どの曲が入っているので)
その前には「Free Throw」というアルバムもリリースしています。

Free Throw【reissue】Free Throw【reissue】
(2010/10/27)
syrup16g

商品詳細を見る


ざっくりしたサウンドが魅力的だった「COPY」の後、日本コロムビアから
白く美しいジャケットも印象的な「coup d'Etat(クーデター)」でメジャーデビュー。

coup d'Etat【reissue】coup d'Etat【reissue】
(2010/10/27)
syrup16g

商品詳細を見る

音が鋭角的になり、洗練され、そしてかなり攻撃性が増しました。
せっかくメジャーデビューしたんだからもっと浮かれても良さそうなものを、1曲目から
My Love's Sold」=「俺の愛が売られてる」と、かなり殺気立っています。
「クーデター」というアルバムタイトル自体、「自分の曲を売り物にする事も良しとする」
「自分自身に対してのクーデターを起こす」という事からついたそうで、
このアルバムでのデビュー以前にも別のレコード会社からのデビューのチャンスが
あったのですが、五十嵐さんが演奏中に暴発したためにふいになったとのこと。
インディーズで伸び伸びと自分のペースでやっていくのが合っていたけれどデビューもしたい、
けれどメジャーの環境はプレッシャーが半端ない・・・といったところだったのでしょうか。
まぁそのお陰か、必要以上に気張って方向性が変わって、というようなありがちな出来にならず
これまでの方向性を継続しながら、更に研ぎ澄まされて、更に広がりも深みも増して
見事に名盤が出来上がって、素晴らしいことです。

リストカット~自殺未遂を連想させる曲、抗精神薬の名前をもじった曲など
一刻の猶予も許さない切羽詰まった曲が多く、少々コワい感じもするかもしれない一枚。
しかし、この病んだ感じや切羽詰まった感じ、これでこそオルタナ/グランジ。
本作以後は徐々に落ち着いていく彼ら。若さもあっての最高強度の狂気が炸裂し、
キレッキレ感にギリギリ感、そして勢いが全作品中最も満ちている、傑作であると同時に
貴重な「青さの記録」でもありそうです。



そして次作が、正しく私が「一緒に泣いた」アルバム。

delayed【reissue】delayed【reissue】
(2010/10/27)
syrup16g

商品詳細を見る

夜の闇と青い光、紫の光もいい感じのジャケット「delayed(ディレイド)」。
このアルバムでベーシストがキタダさんへチェンジ。佐藤さんは、ベーシストとしての
生命線、腰を痛めて、リズムキープに支障が出てしまい戦線離脱になったそうです。
デビュー前、結成当初から演奏していた曲なども収録したためか、前作から僅か3ヶ月という
短すぎるインターバルでのリリース。
前作に比べて穏やかな曲が大半を占めており、前作が動なら本作は静。
とにかく美メロばかりで、「良い曲」が沢山詰まっているアルバムです。
その中にはあのミスチル桜井さんが「いい曲だよね」と賞賛し、後にBank Band
『沿志奏逢3』でカヴァーした「Reborn」があります。
美しくて、哀しげで、よくまとまっていて、サビで感情がぐぐっと押し寄せるギターは
Radioheadの初期作なんかを彷彿する感じ。さらりとしたバッキングのギター、
ちらりと登場する逆回転っぽいギターも良くて、ギター好きにもウケそうです。
アルバムでは3曲目に収録で、最後にボーナストラックとしてアコースティック版が
入っていて、こちらも美しい仕上がり。
更に4曲目「水色の風」のコーラスでは、親交のあるBUMP OF CHICKENのボーカル
藤原基央さんが参加しているそうで(Wiki見て初めて知りました。全然気づかなかった)
セールスは前作に比べ若干地味ながら、何気に豪華なアルバムかも・・・?

しかしながら私が「一緒に泣く」ほど、ライナスの毛布のように寄り添ったのは
1曲目の「センチメンタル」。
(恐らくは五十嵐さん自身の)不器用な青春の日々の記憶を貫く心の痛みを歌った曲。
歌詞も哀しげだけど、涙腺を刺激されてしまうのはなんといってもそのメロ。
温かさと哀しさ淋しさ痛みの配分が、最近別に何も悲しいことなんてなくても
堪えきれず涙を浮かべ、時に零さずにはいられなくなるのです。
Syrupのアルバムを聴き直してみたとき、他のアルバムの「病み」にはもう引っ張られず
距離を置けたのに、このアルバム、そしてこの曲は引き離すことができませんでした。
あの頃、大して何もなくても、無性に悲しく淋しくなっては泣いてばかりいました。
そんなときよく本作をかけていました。
この曲やアルバムをかけるから泣けるのか、淋しくて胸が痛いから沁みるのか。
区別など今となってはつきませんが、今でも鮮やかに感受性の琴線にふれる曲です。
6曲目「サイケデリック後遺症」や7曲目「キミのかほり」などもよく聴きましたね。
捨て曲がない、自分にとっては最高傑作のアルバムです。
聴き手が病んでいようといまいと、本作の美メロと繊細で瑞々しい言葉達は、
きっと多くの人の心に響くはず。その意味ではポップでキャッチーな作品といえます。



みんな「頑張れ」とか「一生懸命」とか「応援してるよ」「見守ってるよ」とか
前向きに前向きにと心がけた歌を届けようとして、それはそれで生産的で良いですが
時々ちょっとそんな風潮に疲れてしまいます。
「頑張る気なんてない」「やる気ない」「後ろ向き」「他人の事なんて知らない」
自分でなかなか言えない心の奥の本音を代弁して、肩に背負った前向きという荷物を
ひととき下ろさせてくれるSyrup16gの楽曲に、救いがないはずなのに妙に救われます。

どうしてでしょうね。
00年代前半に流行っていたバンドですが、寧ろ今こそ必要な音楽なような気がします。
いまや誰もが、ときどき深く疲れ切って、その疲弊を誰にも話せないでいたりするから。


次回はSyrup16g中編として、「HELL-SEE」「Mouth to Mouse」「delayedead」を
取りあげます。
最近はどうも更新遅めですが、よろしければ懲りずに次回にもおつきあいください。



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テーマ:心に沁みる曲 - ジャンル:音楽

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