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酔いどれ詩人になるまえに「頽廃と刹那に生きたカリスマの『ブレないもの』・・・逆境の中でも自分らしさを貫く勇気と強さ」

レッチリのアンソニー・キーディスや故ヒレル・スロヴァク、またアラニス・モリセット
敬愛している作家だということで知った作家・詩人のチャールズ・ブコウスキー
既に故人ですが、ミュージシャン、俳優、同業者など、世界的にコアな人気を得ています。
そんな彼の青年期~デビュー前までを描いた半自伝映画「酔いどれ詩人になるまえに」を
観てみたらかなりおもしろかったので、記事を書いてみます。

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(2008/02/27)
マット・ディロン、リリ・テイラー 他

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本作の原題「Factotum」=ブコウスキーの著書「勝手に生きろ!」が原作。
ブコウスキーを反映させた主人公・ヘンリー・チナスキー
マット・ディロンがルーズに、しかしどこかかっこよく演じています。
こんなにだらしないキャラクターをこのような二枚目俳優がやってよいものかと多少戸惑いつつ
だからこそ執筆に打ち込む姿や、独白部分の説得力が増している印象も受けました。


その場しのぎの仕事に就いてはだらしない言動で首になり、職を転々とし、
昼夜を問わず酒と煙草とセックス、時に競馬などに明け暮れるチナスキー。
一見ダメ男の典型のような彼にはもう一つの一面があった。
それは文章を書くこと。詩を書き、小説を書いては、出版社に送りつけている
自称「作家」である。勿論、それで食べていけないために、一時的な仕事を
うろついているのだが、仕事の依頼は一向に来ない。
一応は大学で2年間、報道学を学んできたのに・・・
鬱屈した毎日が続き、一時的な仕事にはモチベーションが上がらず、
だんだん新しい仕事も見つからなくなっていってしまう。
恋愛も長続きせず、恋人に選ぶのは自分と同じくらい自堕落な女ばかり。
仕事や恋人を彷徨い、いったん仲間が出来たと思っても関係が終わったとたん疎遠に。
恋人には愛を求めない。欲しいのは「成功すること、何かを成し遂げること」だけ。
実家の父親とも険悪な関係が続いている。(史実では父親に虐待されていたそうだ)
孤独と堕落のなか、ただひたすらチナスキーは文章を書き続けて投稿を続け・・・


飲酒から来る粗相や、やる気のなさによるサボタージュ、あるいは仲間に唆されて
道を踏み外してしまうケースなど、さまざまなパターンでチナスキーは職を失い、
その過程と、結果のナレーション(マット・ディロンによる一人称振り返り)に
どこか微笑ましいユーモアが混ぜ込まれていてファニーです。
「酒と女に溺れ、定職に就かず、売れない作家をしている」というととても痛々しくて
正視できない映画、キャラクターになりかねないですが、こうやって軽いノリがあるので
そんなに重々しくならず気楽に観ることができます。

ストーリーの舞台がはっきりと提示されず、時間軸があやふやな一種の不思議世界
広がっているのも魅力。
史実ではブコウスキーは1920年生まれで、ロスの大学に在籍後、NYに移住して、のちに
放浪生活に入るのは1944年以降のことだから、古い街並みが広がって、ファッションも
時代を感じさせるものをまとっているはずなのですが、会社の上司の机の上にPCがあったり
男女が比較的現代的な格好をしていたりして、一方で史実の時代を思わせるものがあってと
舞台が限定されず(「19○○年といった注釈も出ない)解釈は観る側に委ねられ、
ブコウスキーの半自伝と限定しないで独立した青年の半生の物語として視聴することも可能。
あるいは、ブコウスキー~チナスキーの、酒で朦朧とした中での妄想と捉える見方も??

その場しのぎの仕事や女性関係を泳ぐチナスキーの恋の相手達もまた、何だか似たもの同士で
やるせなくなります。
1日に4回もセックスして、チナスキーが仕事に就くと相手してくれないと言って怒り、
失職すると寧ろ喜んで、深酒しては翌朝、二人揃ってバスルームに駆け込んで嘔吐して。
一度別れて再びよりを戻したこの女性(ジャン)とは結ばれるのかと思いましたが・・・。
あるいは、パトロンの爺さんに、自分が本命ではないと知りながら、チナスキーがいながら
経済的に頼り、どこか忘れられていない様子の女性がいて。
酒場や職場、就職斡旋所で出会う仲間や同僚たちも、酒に溺れていたり投げやりだったりと
これまた似たもの同士がくっついてしまいます。
一度「まっとうな道」を外れると、もう戻れなくなって、戻る気力さえいつしかなくして
ズルズルと一生「アウトロー」の道を歩き続けるしかないのでしょうか。
刹那的な登場人物たちを見るにつけ、そんな空しい気持ちが起こりました。

それでも、どんなに堕落していても、どんなに悲惨な生活を送っていても、
「文章を書くこと」「自分を表現すること」にかけてはまったくブレずに自分を信じ抜く
ひたむきな姿勢は最初から最後までずっと同じ。寧ろ孤独がエネルギーになっていると
感じるくらい。(「孤独は贈り物だ」という有名な名言も登場するくらいだし)
ここにチナスキーの、そして本作の希望があります。
何があっても諦めない。笑われても認められなくても挫けない。
やり続ける。自分の中にあるものを信じ抜いている。
社会性の面では全く適合できていないし、する気もなさそうなチナスキーですが
かえってその孤独こそが、彼の内にある才能を磨き、開花させるのに最適な環境に
なっていました。
屈辱を味わうこと、人に理解されないこと、怒りを覚えること、そうした経験全てが
創作においては何一つ無駄にならず、格好の材料やエンジンに昇華されました。
このはっきりした目的意識が、彼を周囲の仲間達と似て非なる存在へと
結果的に至らしめていたのだと思います。
こういう辺りは現代の混沌とした社会情勢の中でも応用できるのではないでしょうか。

一見、破天荒で荒廃した物語ですが、最後に大きな希望の花が咲きます。
そのときに、本作の根っこにあるもの=チナスキー(ブコウスキー)という人物の
本質がくっきり見えてきます。
酒も女も放浪もほぼ一生涯貫いてきた孤高の作家だったブコウスキー。
酒に溺れるのも女に溺れるのも絶えず彷徨いながら生きるのもそれ即ちポリシー。
試行錯誤もありながら、自分に素直だったために、自分の中にあるものがまっすぐ出て
今日に至るカルト的支持、後生まで残る偉大な詩や言葉が紡げたのでしょう。


無気力で適当に見えるチナスキー(ブコウスキー)が終盤にモノローグで力強く語る台詞
何かにトライするなら、徹底的にやれ」。
普段の怠惰な様子からは想像もできないほど熱い言葉です。
文章を書くことは、他の普段の行為や出来事とは別次元。
執筆に打ち込むときのチナスキーの真剣さは強いコントラストになって印象に残ります。
頽廃の仮面に隠された熱くまっすぐな信念の言葉は、世界中の多くの人の胸を打ちました。
彼の名や、彼の言葉は、こんなふうにして遠い未来にも語り継がれていきます。
私もブコウスキーの本を何か読んでみたいと思わされました。
本気とはどういうことなのか。
社会的体裁と、自分の中にある大切なもの、どちらを大事にして生きていきたいのか。
リスクはたくさんあるけれど、人はどんなふうにでも生きていけるということ。
やりたいと思うことをやる難しさと、やり遂げる達成感。

体裁に囚われず本質を追究するチナスキーの生き方を観て、私の中に無数の問いかけ、
魂への揺さぶり・・・そういったものが生まれていきました。
怠惰で見苦しい男の一部始終とみるか、究極のドリーマーとみるかは人それぞれです。
この手の人は、そうやってばっくり見方が分かれるものだから。



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