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スパルタ:スリーズ「At The Drive-Inの魂を継ぎながら、真面目に誠実に未来へと歌を届ける、知る人ぞ知るもう一つの片割れ」
かつてのAt The Drive-in(アット・ザ・ドライヴイン、以下ATDI)の片割れ、
The Mars Volta(マーズ・ヴォルタ、以下前回記事同様にTMV)が残念なことに
なっています(なりそう、というのが正確なのか)。
そんななかで今回はあえて、もう片方の片割れ、Sparta(スパルタ)に着目します。
作品は、なかなかの傑作で、かつTMVとの辿った道の違いも分かりやすい、
3rdアルバム「Threes」を題材に。
ATDI - アフロコンビ(TMVコンビ) = ジム・ワード(G,Vo,Key。セドリックと共に
ATDI結成当初から在籍した中心メンバー)、ポール・ヒノジョス(B)、トニー・ハジャー(Dr)
の3名を中心に、ある程度ATDIの音楽性を引き継いで結成されたバンド、スパルタ。
オマーは急速に人気を博したとはいえ後から入ってきて方向性も段々皆と違っていったし、
中心メンバーの一人であるセドリックはオマーと共に"脱走"したということで、
ATDI解散後の「本家」はこのスパルタに、「戸主」はもう一人の中心メンバーであるジムに
なったといえるでしょう、昔の家制度に例えるなら。(TMVは分家ということで)

このアルバムの頃にポールはTMVへ浮気(笑)。後にそっちも出て行き(追い出され?)
現在では別のバンドをやっているのだそうで(ATDI再結成では何でもないようにいましたね)。
ジムとトニー、そこにキーリー・デイヴィス(G)とマット・ミラー(B)を加えた4人編成に。
ATDIメンバー比率は半分になってしまっているわけですか・・・
「ちょっと小綺麗な場所にいて、とりたてて特徴がなくなって、何となく地味になって
よくも悪くも普通」という印象です。
いま紹介したメンバー画像からも伺えるように、スパルタはATDIと
同じものには当然ならず、1stアルバムをリリースした当時からその違いは
結構はっきりと出ていたようです。
http://sound.heavy.jp/blog/archives/2002/10/sparta_021026.html
Sparta (02.10/26 新宿リキッドルーム)
NIHILISMさんという方によるblogのライヴレポ。
今回、1stや2nd、その後の4thに耳を通すことができず、なぜか3rdだけによる
レビューになってしまったため、3rd以外の彼らを直接耳にしていないのですが、
・ATDIの路線を継承しているが、やっぱ微妙に違う。少し大人しくなったのでは?
・ラウドで熱く緊張感のある演奏、アフロコンビがいなくても十分素晴らしいライヴ
とのことで。「あの」演奏をしていたサイドヴォーカル・ギタリスト&リズム隊だから
そりゃ素晴らしい演奏が出来る実力や熱さがあるのは当たり前かもしれませんが。

「TMVは成功して、スパルタはダメだった」というイメージがどうしてもありますが
このようにステージを大観衆で埋め尽くし、ライヴバンドとして堂々と君臨する
ことだってあったわけで。そりゃTMVほどじゃなかったかもしれないけれども。
さて、本題の3rdアルバム「Threes」へ。
![]() | スリーズ (2007/02/07) スパルタ 商品詳細を見る |
物騒ですがなかなかキレのあるデザイン。冊子をひろげると、この「絵」の向こうには
緑いっぱいの清々しい景色が広がっていて、本作の世界観をよく象徴しています。
![]() | ポーセレン (2004/08/21) スパルタ 商品詳細を見る |
2ndのジャケがこちら。ジャケ買いもよさそうです。好みかも。
しかしどうしても突っ込んでおかねばならないことがひとつ、それは帯のキャッチコピー。
目を閉じて大きな声で叫ぶんだ
スパルタ遂に始動!
元アット・ザ・ドライヴインのメンバーらが結成したバンド
孤独と淋しさを乗り越え次世代へ捧げるメッセージ
「は?」以外の言葉がでてきません。
目を閉じて大きな声で「スパルタ遂に始動!」って叫ぶの?おかしくないか?
しかも本作は3rdアルバムで、今初めて始動したわけでもありません。
最後の一行は聴けば何となく納得ですが、聴かずにフレーズだけ見たら
「さよならセド&オマー」を引きずっているみたいでやっぱり時期がおかしい。
音源をちゃんと聴かずに、情報もチェックせずに、担当者適当に書いただろう!
こういうところからも何だか損をしている彼ら・・・・・・
歳相応の音を鳴らして、曲作りをしている、等身大のバンド・作品というのが第一印象。
良くいうと素直で真面目、悪くいうと個性不足でありきたり。
TMVほどのセールスやインパクトを得られなかった要因はこのあたりだと思います。
ジムたちは、良くも悪くも真面目で常識的すぎる(ミュージシャンとして)のです。
あのアフロどもが脳みそかっとび過ぎているともいえるのですが・・・(苦笑)
でも、よく聴いてこの誠実さにハマったなら、何度も聴ける良作だと感じられるはず。
帯の後ろ側に「今まで以上にエモーショナルでキャッチーで更にメッセージ色の濃い内容に
仕上がった待望のNEWアルバム!」とありましたが、
本作は全体的にすごく「歌」「メロディ」を大事に作られていると感じました。
当時はエモバンドだったからいいのですがATDIでのジムの歌といえば殆ど「がなり」。
しかしその記憶が嘘のように、ジムが優れたヴォーカリストへと飛躍しています。
曲調とあわせてどことなくMUSEぽいように感じたのは自分だけでしょうか。
それはともかく、「歌=メッセージを届ける」という意志の強さがよくわかります。
楽曲のテイストはATDI+今どきの普通のポップ~ロックバンドといった趣。
ATDIを彷彿させつつも青年から大人への成長を感じる熟成した音づくりの#1、
哀感が前面に出ており、アコースティック寄りなアプローチの#3、
キーボードを効果的に使ってスタイリッシュなエモ・ロックに仕立てた#4、
青春ポップ~ロックともいえるような爽やかで甘酸っぱいライトタッチな#5、
これまでの落ち着きはどこへやら、調和をぶっ飛ばし衝動的に駆け抜ける#9・・・
女性コーラスを取り入れた#12、レディオヘッドやシガーロスを思わせる浮遊感漂う
ギターの#13なども登場し、多様なアプローチが繰り出されます。
あまりに幅広い曲調、流れを重視しない唐突な曲調の変化は、このバンドがATDIを
引き継いでいることを思い出させます。こういう辺りはジムの作風だったのでしょうね。
そのうえ本作には曲間が殆どなく、ミディアム・テンポの曲でも余韻に全く浸れません。
ライヴ・バンドらしいともいえますが、しっとりした曲や温かい曲は余韻が欲しい。
照れがあるのか、バランス感覚がちょっと悪いのか、
「曲間を殆どつくらない」と決めたなら曲調に構わず統一したいという感覚が強いのか。
こんなところも「良くも悪くも真面目」で、融通が利かなくて損をしてる感じ。
そうして、出色でかつ本作の真骨頂といえそうなのは、
草木や青空が背景に浮かび、スケールの大きなぬくもりのカタマリが届けられる
父性さえ漂う曲。#8や#13などでそれを堪能できます。
ただ不満だ不快だとギャースカ喚いていればよかった、ATDIに象徴される少年時代とは
もう違うわけで、メンバー達はその事実を少しの諦念を込めながら、どっしりと受け止め
現代の、あるいは未来の少年達に託しているのです。
そうすることで彼ら自身の肩の荷が下りて、清々しくなっていきながら。
何が彼らを落ち着かせ、清々しくさせたのか。
「我が儘なバカアフロども」が去り、しかし同時に花形役者が二人も去り、
地味な面子ばかりになってしまったが、初志貫徹とばかりにこれまでやってきた
ATDIの音楽を継承して、鳴らし続けてきたメンバーたち。
けれどもTMVがときに全米チャートトップ10入りを果たしたり、レッチリの
フリーだのジョンだのがゲスト参加したりといった華々しい話題を振りまく一方、
ファンが居ないわけではないけれどどうも鳴かず飛ばず・・・
その上、ポールが何を思ったか、TMVのほうへ移籍してしまうしで、
これは落胆しないでいろという方が無理があります。
しかるに、以前TMVの連載で私が追いかけたように、また今回の騒動のように、
オマー(とセドリック)の「何でもやってみたい病、我が儘病」はいつしか
バンドの人間関係にしばしば綻びを生み、次第にバンドはマンネリ~破綻への
道を辿ってしまいます。
一方のスパルタは、大きく持ち上げられることもないかわりに、成り上がって
いい気になることもなく、地味でも堅実な道を歩む幸せに気付いたのでは
ないでしょうか。
それだけでは食べていけないからATDI再結成の話が浮上したのでしょうが・・・
ともあれ、スパルタの面々は、ATDIやTMVとはまた違った幸せのかたち、
表現のかたちに辿り着いたとはいえるはずです。
かつての仲間が去っていったり、華やかな成功を収められなかったりと
挫折や孤独感を否応にも噛みしめたであろうスパルタの面々。
ATDIは時に「天下はすぐそこ」とまで囁かれていただけに、大変な屈辱だったでしょう。
しかし、それらの痛みや喪失感が、彼らを芯があって落ち着きや温もりも備えた
大人のバンドへと成長させ、派手さはなくとも好感のもてる良作の誕生に繋がりました。
真面目で誠実であまりに不器用で、そして人間臭いアルバムです。
地味でもいいから、スパルタはコツコツと長く続けていってもらいたいと
願ってやみません。
・・・それともフリーダムになった旧友のセドリックを連れてきちゃうか?
流石にそんなバンドは「スパルタ」じゃないでしょうが。
先日恐る恐るATDI再結成時のコーチェラフェスの動画を観て、キー下げ、オマー(略)に
がっかりを隠せなかったので、ATDIの頃に戻ろうとはあまりしないでもらって。
本当はTMVにも腐れ縁で細く長く続けて欲しかったのですがね。
「皆が平和で楽しく音楽を演れれば、それでいい」なんて少々情けないことを思ってしまう
今日この頃です。
ミュージシャンにはどだい無理な願い事だと分かっちゃいるのですが・・・
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ある朝、目覚めたらThe Mars Voltaからセドリックが居なくなっていた
でもこのくらいの「青天の霹靂」感のあるニュースでした。
「活動休止って言ってたし、まぁ1~2年は音沙汰ないんだろう、
というかオマーのソロ作品が実質TMVみたいな所が時々あったから
そうやって何年かは、なし崩し的にやって、それからまた復活するんだろう」
ぐらいに思って最近チェックを少し怠っていたThe Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)の面々。
かつて仲違いした片割れ・Sparta(スパルタ)組と合流して
At The Drive-In(アット・ザ・ドライヴイン)を再結成したのだってついこの間だし、
確かに、バンマスでギタリストのOmar Rodriguez Lopez(オマー)の我が儘や気まぐれは
端から見ているこちらだってハラハラしたりゲンナリしたりさせられてきたけれど、
よりにもよってオマーとセドリックのアフロコンビがそう簡単に仲違いするはずは・・・
だって、そんなことでもあったらそれ即ち解散では・・・
しかし先月、そのまさかが起こってしまったようなのです。
ヴォーカリストにしてオマーの無二の相棒であるはずのセドリックが、脱退、
そしてバンドは解散へ・・・?!
http://amass.jp/16772
マーズ・ヴォルタからヴォーカルのセドリック・ビクスラー・ザヴァラが脱退、解散へ
セドリックの堪忍袋の緒が切れてしまったのは、彼がツイートしたところによると
オマーがマーズ・ヴォルタの活動を中断し、新プロジェクト・バンド、
「Bosnian Rainbow」(ボスニアン・レインボウズ)を始動させたことへの不満が原因だと
このサイトでは伝えており、さらに記事は
「海外メディアでは「事実上の解散」として報じています」と続けて締めくくられています。
・・・ん?「事実上の解散」。ってことはまだバンド側は正式に「俺ら解散した」と
アナウンスしたわけではなくって、セドリックというヴォーカリストが脱退したに過ぎず
また誰か新しいヴォーカリストを入れれば続けられるんじゃないの?
それに上述サイトにもリンクが載っているけれど、セドリックだってサイドプロジェクトを
マイク・ワットらと始めている(Anywhereというバンド)じゃないですか。
今までだってオマーは色々な活動をしてきてたというのに、それにはとりたてて
腹を立てたという話は聞かなかったのに、なぜ・・・?
ひとつには、今回オマーが始めた「ボスニアン・レインボウズ」が、「TMVを休止させてまで」
始めたバンドで、これまでのソロ~サイド・プロジェクトの域を超えてしまったのでは
ないかということ。
もうひとつは、本当は昨年に6thをリリースした時点でツアーもセドリックはしたかったのに
創作活動をたくさん行いたい志向のオマーがそれを望まないためにツアーが叶わず、
更にはATDI再結成ライヴでのオマーの姿に「あからさまなやる気のなさ」が表れていて・・・
といった積み重ねで(お母さんが亡くなったショックのためだから仕方ないだろう、と当時
セドリックがフォローしていましたが、同時期の別名義での演奏ではノリノリだったという
残念な説も・・・)、ライヴをやりたいセドリックと作品造りに走りたいオマーとの溝が
もはや埋められなくなったということ。
ATDI再結成の企画をスパルタ組と話し出した時点で、セドリックとオマーとの間には、
既にだんだんと溝が出来始めていたのでは。
ATDI再結成に乗り気なセドリックと、嫌々だとインタビューの場でまで言ってしまうオマー。
ソロなどの課外活動にのめり込むオマーと、顧みられなくなったTMV~セドリック。
TMVが6thリリース後に活動休止を宣言したのは、ATDI再結成の為だけでなく、
この、ふたりの対立に「一旦、休戦しよう」といった意味もあったのではないでしょうか。
そこにきていま、オマーが越えてはならない一線を越えてしまった、と。
http://www.barks.jp/news/?id=1000086771
マーズ・ヴォルタ、セドリックが脱退、事実上解散か?
barksでもやっぱり「事実上解散」ですね。
そしてこちらではセドリックのツイート内容がより端的にまとめられています。
セドリックは水曜日(1月23日)、Twitterにファンへの感謝と謝罪の言葉と一緒に「俺はもうマーズ・ヴォルタのメンバーじゃない」とのメッセージを掲載。
彼自身は活動を続けようと全力を尽くしたものの、バンド・メイトのオマー・ロドリゲス・ロペス(G)が新プロジェクトをスタートしマーズ・ヴォルタに興味を無くしていると説明した。
オマーのソロ・ベスト・アルバムを聴いたり、その際、彼のソロ作品の圧倒的な量や
飽くなき好奇心に立ち会ったりした時、またその後でTMVの新作を聴くと余計に
「ああ、こりゃオマーTMV飽きてんな」とはうっすら感じたのですが、
自分たちで造ったものをこうまであっさりと、要らなくなったオモチャみたいに
投げ出してしまうとは・・・
バンドはアナタ一人の「モノ」ではないのだと言う気力も萎えるほどに、がっくり来ます。
TMVが世に出て10年弱。そうか、もう興味を無くしてしまったのか・・・
現在のこの光景は何かにとてもよく似ています。
それはあの日、セドリックとオマーが連れたってATDIを飛び出し、バンドは空中分解して
解散へ追い込まれた、光景に。
今、また同じようなことが繰り返されようとしているのでしょうか?
オマーは、ATDIの仲間たち、数々の歴代ドラマー、増やしたけど不要になったメンバー達、
かつて親友だったジョン・フルシアンテ(こちらはどっちかというと、フルシアンテの
ほうが「プログレッシヴ・シンセ・ポップ」を追求する為に袂を分かった印象だが)、
そしてATDI以来の相棒であるセドリックまでも、次々に失っていくのでしょうか。
失っても次々得ているみたいだから関係ないか?(苦笑)
「不器用で非情だと分かっていても、自分の拘りを曲げられない」
そんな苦悩と戦っているところなのでしょうか。
・・・初めてTMVを聴いたときは目の玉が飛び出す勢いで意表を突かれたものです。
次に、こんなものがチャートの上位にいるなんて聞いてもっと驚いたものです。
今度は何をしてくれるかが本当に楽しみなバンドでした。
セドリックのヴォーカルに引き込まれ、セオドアのドラムに息を呑みました。
ホアンのベースも好きになり、ゲスト参加のレッチリメンバー目当てだったのを
いつしかすっかり忘れて、無我夢中で何度も何度も聴きました。
そして何よりとんでもないと思ったものは、オマーのとてつもないセンスで、
古めの素材も慣れない国の風味の素材も彼にかかれば、先鋭的な切り口でもって
ほかの何よりもいびつで風変わりながら、不思議とひとつにまとまっていて・・・
解散するのかもしれないし、新しいヴォーカリストを入れてそのうちまた再開
するのかもしれないですが(でも、もう、やる価値はないのかもしれない)、
1st~3rdでドキドキさせられたあの衝撃をもう一度、
いやせめて4th以降でも、強烈コンビ「セドリック&オマー」がぶつかり合って創る
「ほかにはない体験」に立ち会うことは恐らくもう二度と叶わなくなりました。
残念です。

視覚的にも面白かった、アフロとアフロ、オシャレメガネと無精な正統派の
組み合わせ。淋しくなります。
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テーマ:お気に入りアーティスト - ジャンル:音楽
The Mars Volta:その5 八面体「荒涼とした世界で、漆黒の空を彩る星々のように儚く煌めく、哀しいほど綺麗なモニュメント」
The Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)でしたが、
セドリックとオマー曰く、5thアルバムのテーマは「ポップ」「メロウ」そして「アコースティック」!
CD収録時間ギリギリいっぱいまで詰め込まれていた前作に比して、8曲50分と、
このバンドらしくないコンパクトな仕上がりになりました。まぁ、やっぱり一癖あるけどね。
そんなアルバム「Octahedron(八面体)」の登場です。
![]() | 八面体 (2009/06/17) マーズ・ヴォルタ 商品詳細を見る |
何とAメロ→Bメロ→サビという、ポップ・ソングの基本枠で大半の曲が作られている!
あのマーズ・ヴォルタが?!
今までにはほぼ絶対にあり得なかったことで、これだけでもかなりの驚きです。
実際には他のアルバムの曲もある程度そういう枠にはめられるような気もしますが、
なにせ展開がめまぐるしくて鳴っている音も突飛で、メロがメインになるはずがなく(笑)
そして二人の意図通り、美しい歌メロが光り、他のパートは基本的に歌伴に徹し
セドリックの繊細なヴォーカルを引き立たせるという、ポップでメロウな作風に着地。
音数も今までなかったほど少なく、アコギも一応2曲でフィーチャーされるなど
確かに「マーズ・ヴォルタ流」アコースティック・アルバムと呼んでも
間違いはなさそうです。一般リスナーがどう解釈するかは置いておいて(苦笑)
音数だけでなくメンバー数も削減を始め、サックス担当のエイドリアンと
「Scabdates」から参加したギター・サウンドマニュピレーション担当で
かつてAt The Drive-In(アット・ザ・ドライヴイン)でベースを担当していた
ポールに、リストラを宣告するなど、なかなかに手厳しい人事も敢行しました。
本作から、レコード会社とマネージメント会社を移籍し、レッチリと同じ会社へ。
(アルバム日本版は以前の会社のままで、新作から移籍先ワーナーに)
そしてたまげたのが、日本版で参加アーティストのクレジットを見ると、
オマー、セドリック、そしてその次にジョン・フルシアンテが!
このダブルの流れで、「ええっ遂にあなた、レッチリのみならず、マーズ・ヴォルタまで
乗っ取っちゃったんですか」と驚くやら呆れるやら。
本作リリース年の年末に、あの「1年前から脱退してました」宣言があったので、
当時は「これは遂に、マーズ・ヴォルタに正式加入か」とぬか喜びしたものでした。
でもそれどころか、本作が最後の参加で、メジャー音楽シーン自体から隠遁しちゃうとは・・・
やけにメロディアスで泣きな作風になったものだから、この人の支配下に
いよいよ置かれちゃったアルバムなのか?と訝っていたので、
英文Wikiにて、アフロコンビの明確な意図が反映された方向性であることがわかって
かなりホッとしたのでした。
まぁオマーとジョンって、方向性が相互リンクしちゃう傾向がかなり強いので
(詳細は今後書くオマーのソロのレビュー記事にて)影響や貢献度が高かったために
名義をフィーチャーしたのかな、とも。
ポップ・ソングの枠を意識して作られただけあって、曲単位でのまとまりは完璧。
アルバム単位でももちろん・・・と中盤まで思っていたら、
唐突に従来タイプの曲「Cotopaxi」(シングル曲)が#5にねじ込まれ、
次曲#6まで流れ回収に巻き込まれる為に、せっかくのまとまりが台無し。
#7からまた前半部に引き続く流れに戻るので、アルバム単位での統一感は
「Cotopaxiさえなければ・・・」の一言に尽きるというしかなく。
確かに格好良い曲だし、前半までを「どうしたの?物足りないよ~」と感じるライト層リスナーは
「オッ!やっとノリのいい曲が来た」と引っ張れるんでしょうが、
そうやって大衆を「釣ろう」という意図がまるわかりなのは
このバンドのCDを買ったり、ライヴに足を運んだりするコアなファンにとっては
かえってマイナスに働いたのでは。
大衆受けメジャーバンドならともかく、彼らのようなこだわり系のバンドだからこそ。
「マーズ・ヴォルタは大衆向け、ソロはコアなファン向け」という区別が
一層あからさまに出たかたちに。ここまで足元をモロに見られて、ファンはどう思うか?
それが昨今の、とりわけ本国の、人気低迷に繋がった小さくない一因だと思います。
逆に言うと、ちょっと世渡り下手なバンドなのかも。
マーズ・ヴォルタはよく、キング・クリムゾンやピンク・フロイドを引き合いに出して
語られますが、本作はそういった「王道プログレバンド」が作りそうな曲の多い
いわば正統派プログレ。それまでが「プログレッシヴなプログレ」「個性派プログレ」
だったのに対し、プログレという音楽的な一つのルーツに回帰した格好でもあります。
ここで、ただオールド路線に回帰するだけでなく、オマーの持ち味、近未来テイストを
ギターやシンセサイザーなどによるアレンジで加えるのが、現代でも古臭くなく聴ける所以で
相変わらず解釈が素晴らしいなぁと感服する限りです。
今まで聴いたことがほとんどなかった、セドリックの儚く透明で情感豊かな歌声。
真っ暗な夜の闇に包まれて、星空を見上げる情景が想起される曲調やタイトル(#4,#7)。
冷え切った質感、静寂の中でそっと紡がれる哀しい歌、虚空を見つめるような無力感は
マーズ・ヴォルタ流「Wish You Were Here(炎~あなたがここにいてほしい~)」。
しかし、「Wish You Were Here」が具体的に葬る対象(シド・バレット)に向けて
歌われていたのに対し、彼らが葬ろうとしていたのは何だったのか?
英文Wikiを読んでいると、本作制作直後に、オマーは何とマーズ・ヴォルタを
これでお開きにしようと考えていたのだそうです。
そしてセドリックは本作の方向性をこのようなものにした理由を、「今まで自分たちが
作ってきた作品と、全く違うことをしたい」と語っていました。
今までの自分たちと、さよなら。
それはセドリックの中では「新しい方向性へ」のためのものでしたが、オマーの中では
「マーズ・ヴォルタを畳んで、ソロへ」と、いつしか二人の考えが大きくズレて、
まさかの十数年ぶりの大喧嘩へと発展し、なぜかセドリックの方が「やめてやる!」と
言い出したり。
また、静かで哀しい曲調は、どうにも、バンドの衰退をイメージさせてしまいます。
日本ではある程度まだ人気がある彼らですが、向こうではいわゆる「オワコン」バンドだと
みなされているそうで、そんなこともあってのATDI再結成という見方を
する向きもあるようです。
それでも、美しいものはやっぱり掛け値なしに美しい。
普段乱暴で不器用な彼らが丁寧に丁寧に拵えた、哀しいほど綺麗なモニュメント。
色々難癖をつけてしまったとはいえ、なんだかんだでお気に入り度合いの高いアルバムです。
セドリックの素晴らしいヴォーカルに思わず胸を掴まれる一枚。
メジャーな音楽をいつも聴いている人は、本作が一番馴染みやすいと思います。
さて、その後の彼らは?
ドラムのトーマスはクビ、そしてまたしてもドラマー・ジプシーを経た後に、
以前セオドア→トーマスに決まる合間にもサポート参加をした
ディーントニ・パークスが加入。キーボーディストもこれまでのアイキーから
ラーズ・スタルフォースに入れ替わり。
ホアンとマルセルは残留で、現在は6人編成に。
そして、最近こんな新譜が出ています。
![]() | ノクターニキット (2012/03/28) ザ・マーズ・ヴォルタ 商品詳細を見る |
もんのすごく好みのジャケ!(笑)
ジャケット担当者も代わって、オマーのソロアルバムのジャケを
いつも手がけている、サニー・ケイに。
・・・と、何だかんだで新譜は作ったとはいえ、この作品をもって、マーズ・ヴォルタは
活動休止することに。セドリックとオマーは前述した通りATDI再結成へ、
残りのメンバーも各々のソロ活動等へと進むそうです。
The Mars Voltaの連載記事はひとまずこれにて一区切り。
次回かその次あたりに、オマーのワーカホリック過ぎるソロワークスをひとつにまとめた
日本限定発売ソロ・ベスト・アルバムのレビューをします。
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At The Drive-In:Relationship Of Command「祝・復活!怒りと疾走感に満ちた伝説のバンド。童貞ちゃうわの他にも空耳あるわ!」
At The Drive-In(アット・ザ・ドライヴイン、通称ATDI)が、今年、まさかの再結成!
4月にアメリカで行われる「コーチェラ・フェス」というフェスでのライヴを皮切りに各地へ。
フジロックにも出るみたい!行きたいーーー!!!
前年から実はそういう噂は聞いたことがあったんですが、まさか本当に実現するとは!
それに伴ってか、セドリックとオマーのThe Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)は
新作リリース後、活動休止するらしく。
前年の段階で、セドリックは既にATDIの再結成に乗り気で、何とかオマーを説得して
実現した模様。再結成がスパルタ組から出た話か、セドリックから出た話かは不明。
しかし最近のインタビューで、オマーが「カネ目当てに決まってるだろ」みたいなことを
言ってまして。何をするにも何かとカネがかさむって。。
潔いというか、身も蓋もないというか・・・
一抹のモヤッとした思いはともかく、現時点で「最初で最後のメジャー・アルバム」である
「Relationship Of Command(リレーションシップ・オブ・コマンド)」を
聴いてみることにしましょう。
![]() | リレイションシップ・オヴ・コマンド (2004/12/22) アット・ザ・ドライヴ・イン、アット・ザ・ドライヴイン 他 商品詳細を見る |
感想の前に、結成からこのアルバムまでの、バンドの動きをさらりと。
アメリカとメキシコの国境沿いにある町、エル・パソにて結成。
セドリック(Vo)とジム(Gt/Vo/Key)を中心に活動をはじめ、のちに
オマー(Gt)、ポール(Ba)、トニー(Dr)を加えて現在の布陣に。
インディーズ時代に2枚のアルバムをリリースし、精力的にライヴに励み、
その凄まじい演奏・パフォーマンスでじわじわ人気を得ます。
そうしていよいよ、メジャー・アルバムの話が到来。
先行シングル「One Armed Scissor」(アルバム3曲目)が話題を呼び、
満を持してリリースされたアルバムは大ヒット。
「ポストRATM」「次代を担うバンド」として大きく期待され、フォロワーも多数。
本国の雑誌で「グレイテスト・ギターアルバム100」や
「グレイテスト・アルバム・ベスト100 1985-2005」にランクインするなど、
今でも名作と名高いアルバム、そして誉れ高いバンドです。
再生するなりその世界に呑まれて、激しいライヴが目に浮かんでしまうはず!
強靱なリズム隊に乗っかって、2本のギターが絡むリフは圧巻。
歌というより叫びのようなセドリックのヴォーカル、4人の鳴らすサウンド、
全てに疾走感が満ちあふれていて、怒りにも満ちていて、
攻撃的かつ切れ味鋭く、ライヴを重ねたお陰で演奏のまとまりも円熟していて、
5人が一体となって迫ってくる、「この5人でしかできない」と思わせるような
一体感と迫力の虜になります。
ラップ混じりのヴォーカルにトリッキーなギターということで、RATMが下敷きにあるとしても、
単にフォロワーでは終わらず、ヴォーカルはよりメロディアスかつ伸びがあり、
ギターはエフェクターだらけの足元、荒々しくて奔放に音世界と戯れるようなリードギター。
より進化したポストハードコアバンドとして、RATMのトム・モレロも賞賛したそうな。
存外ポップだったり、静寂に包まれたナンバーもあり、バラエティ豊かとも散漫とも
とれますが、やっぱり推しは怒りや疾走感が全開のハードなナンバー。
#1,#3,#4,#6,#7,#8などに耳を惹かれてしまいます。
のっけから頭を打ち抜かれるような衝撃が走る#1でまず驚き。大絶叫炸裂!!!
ギターリフやドラムとぴったり同期するためあまり目立たないけど、この曲はポールの
輪郭のくっきりした、主張の強いベースソロ始まり(#9もですな)。イイですねぇ。
序盤のほうで「違った~違った~ことだけっど~」という空耳を発見しました。
先行シングルカットされた#3は言うまでもなくかっこいい。陰鬱に始まり、サビで怒りが炸裂。
キャッチーな曲ですが、オマーとジムの2本のギターの絡みは美しくすらあります。
中盤でセドリックとジムが共にシャウトする場面がありますが、二人とも伸びのよいシャウトで
気持ち良すぎる!
#4は不本意にも「どどどど童貞ちゃうわ!」の空耳が先行して知れ渡ってしまいましたが(笑)
名曲なんですよ!最初から最後まで全員全開で飛ばしていて、ダイレクトに効きます。
童貞ちゃうわでも何でもいい、セドリックのラップの熱量とキレが凄いんです。
2本のGt,Ba,Drが一つになってうねる#6は、音の塊に振り回されて頭がぐるぐるになりそう。
この曲のイントロ、Boom Boom Satellitesがパクってる気がする(笑)
カーチェイスを連想させる(歌詞でも言ってる)#7は、サビの疾走感が最高!
車を飛ばしたいぞ~!クラップも効いて、音速の速さで駆け抜けたくなります。
イントロのヴォイス、パーカッションなど、音のアプローチがユニークで良いメリハリ。
#8はなんと、イギー・ポップ大先生が参加。セドリックでもジムでもない声がすると思ったら
イギー先生でした。ここでは「カカカカカカカ、帰れ!」という空耳が炸裂しています。
まさかイギー先生に「うるせえジジイ、帰れ!」って言いたいってことはないよな?
私が把握できただけで実に3つもの空耳。セドリック、いつ日本語覚えたの?(笑)
セドリックのヴォーカルがあまりにキレキレで、ついついそこばかり耳がいきがちですが
それに更に火を注ぐのがジムの怒号のようなコーラス。怖えぇ!迫力ありすぎです。
たまにオマーもコーラスしていることがあり(ライヴなど)、迫力更に追加。
そして#10ではトニーのドラムがイントロから大爆発!
爆撃リズム隊が好きな人はこのバンドを絶対聴くべきです。
なのにオマー、当時トニーのドラムに不満があったって?何と贅沢な!
後にマーズ・ヴォルタがドラマージプシーに陥るのを、既に予見しているかのようです。
もう、全てのパートが、火と火でぶつかりあって、燃えたぎっているんですよね。
でもそれだけじゃメリハリがないから、静と動のコントラストを常に意識している。
AメロBメロで引いてタメて、サビで一気に押す!
#5では「一曲終わって、あれ?もう一曲?」という構成。#8では雷雨とおぼしきSEが出てきて、
間奏部分では色んな音色を駆使して「雷雨」のイメージを表現しています。
エフェクト大活躍のギターサウンドと合わせ、後のマーズ・ヴォルタに通じる要素が
随所でみられて、そうした点でも興味深いです。
音源で十分お腹いっぱいになれる本作ですが、Youtubeなどで当時のライヴ映像を検索して
観てみることを強くオススメします!
なにせ彼らの本領はライヴ。セドリックとオマーのアフロコンビのインパクトが半端ない!
髪型もさることながら、右往左往と、もう狂ったように暴れ回りまくる!!!
オマー曰く「あの時期のことはヤクのやり過ぎでよく覚えてない」んだそうですが(苦笑)
視覚的にもとんでもないバンドです。
こんなのを生で観られた日にゃ・・・!
再結成ライヴではどんな演奏・パフォーマンスが観られるのでしょうか?
みんな歳をとって、色んな経験を積んで、当時ほど怒りに満ち満ちていないだろうし、
体力面もあるし、もうそんなにヤク漬けになることもないだろうし(たぶん)。
でも今でも「マーズ・ヴォルタのライヴは凄い」という感想を随所で聞くので、
少なくともアフロ組、とりわけセドリックは問題ないでしょう。
乗り気でないうえ最近落ち着いてきたオマーと、スパルタ組がやや心配・・・でもないか?
順風満帆にロックスター街道を歩んでいると思われていた5人。
しかし、ギャラの問題、更には音楽性の相違など、様々な問題が生じ、
5人はツアー中に「マーズ・ヴォルタ」と「スパルタ」に分裂、解散。
オマーのソロ・ベスト・アルバムに寄稿している、オマーの古くからの仲間によると
オマーのサウンドが他のメンバーに受け入れられなくなり、孤立し、バンド絶頂期に
脱退を余儀なくされる状況に追い込まれ、そこで昔から親友だったセドリックと
「協定」を結んで、ふたりでATDIから飛び出した、とありました。
でも、ATDIはそもそも、セドリックとジムが始めたバンドで・・・。
そして「ギャラの問題」については、例えばこうした場面。

セドリックが言っていたと記憶していますが、この手の写真は、フロントに写るメンバーに
より多くギャラが支払われるのだとか。
そうすると、メジャーバンドのフロントマンのセドリックが有利で
見た目のインパクトか、サウンドの影響力か、オマーも前に出てくることが多く
スパルタ組はこのように、後ろに追いやられる写真がちょっと多めです。
憶測するに、大きく括ると、ジムVSオマーで対立しちゃったのかな、と。
リーダー格だったはずのジム、いつの間にか人気や影響力が出てきたオマー。
オマーはマーズ・ヴォルタでサルサやラテン音楽など、隣国メキシコを思わせる要素を
多く盛り込んでいますが、ジムはそういう音楽は絶対にやりたくないと言っていました。
立場の逆転に加え、音楽性も合わない、出す音は理解を超えたアヴァンギャルドさ、と。
結果的に、この闘いはマーズ・ヴォルタ=オマーの圧勝に終わるとはいえ
自分がジムだったら、オマーの存在を受け入れるのはやはり難しいかも。
ずっと一緒にやってきたセドリックを奪還したりと、その行為も許し難いかも。
他のメンバーはジムについてきたとはいえ。
セドリックにしても、ジムを裏切ったことにどこかでずっと負い目があって、
だからATDIの再結成に乗り気になったのかな、なんて想像してしまったり。
そんな確執から11年が経ち、時の流れ、他さまざまなものがわだかまりを溶かし
(オマーの発言から鑑みるに、互いの利害のための、形式的な和解かもしれなくても)
今ふたたび5人による新たなステージが繰り広げられようとしています。
オマー曰く、ATDI名義での新作はないとのことですが、
なにせ真骨頂がライヴにあるバンドですから、ライヴを楽しめるだけでも
十二分幸せなことなんじゃないでしょうか。
セドリック、ジム、オマー、ポール、トニー、ガツンと来るかっこいいライヴを頼みますよ!
私は観にいけないから、Youtubeあたりをチェックするしかないので
観にいける幸せなあなたは、私の分まで存分に楽しんできてくださいね。
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